2.2月15日
第6話
翌日。
浩志は、彼にしては珍しく、遅刻も居眠りもすることなく、平穏に1日を終えた。
彼の学校では放課後は、優や他の生徒のように、部活に参加するのが本来であり、もちろん彼も部活に入っている。
だが、放課後に補習を言い渡されることが多い浩志は、部活に参加することの方が稀であり、ほぼ帰宅部となっていた。
昨日までの放課後は、部活に励む生徒たちの声で校内が賑わっていたが、今日からは学年末試験期間になり、生徒たちは授業を終えると、早々と帰宅していった。
それなのに、浩志は生徒指導室で、何部もあるプリントの山を前に、一人黙々とホチキス止めをしている。
他の生徒のようにすぐに帰宅する気になれなかった彼は、渡り廊下から中庭を見下ろしていた。 浩志は昨日見かけた少女のことが気になっていたのだ。
中庭は、いつもと変わりなく殺風景なままだ。
(でも、あいつは何かを見ていたんだ)
そんなことを考えながら、ぼんやりと中庭を見ていると、英語教師の小石川に声を掛けられた。
「おっ、成瀬。暇そうだな? まだ帰らんのか?」
「なんだ、こいちゃんかぁ」
「なんだとはなんだ。それに小石川先生と呼べ。全くお前は……」
そう言いながらも、小石川は腹を立てた様子もなく、浩志の隣に並んだ。
サッカー部の顧問をしている小石川は、浩志が1年生の時のクラス担任でもあった。
遅刻や居眠りといった問題の多い浩志を見離さず、1年間ちゃんと向き合ってくれた彼は、強引で少々熱血気味な教師だが、そんな小石川を浩志は慕っていた。
彼がほぼ帰宅部になりながらも、未だにサッカー部に籍を置いているのは、この教師が顧問だからかもしれない。
「何してるんだ? こんな所で」
「別に。何も。帰っても勉強とかしないし」
「そうか。先生としては勉強してほしいんだがな……。まぁ、じゃあ、先生を手伝え」
「はぁ?」
「ちょうどよかった。今日中にやらなきゃいかんのだか、急に会議の予定が入ってな。困ってたんだ」
「……」
「いや~助かるよ成瀬。いい生徒だなぁお前は」
「……俺、まだ手伝うって言ってないけど」
「先生のクラスで使うプリントなんだけどな、ホッチキスで一部ずつ纏めてくれ」
「……」
小石川の強引さは、いつものことだ。
彼を慕っている浩志は、口では否定的な事を言っていても、それ程嫌な思いはしていなかった。
しかし、素直に手伝うと言い出すこともできず、ただ黙っているだけの浩志に、小石川は冗談めかして言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます