第2話
カーテンの隙間から刺す朝の光は、空中を漂う極小のホコリたちに反射して、まるで光の粒が落ちているかのようにキラキラと輝いている。そんな光の粒を、浩志は目覚めたばかりの瞳にボンヤリと映していた。
春の柔らかな陽射しが心地好い休日。
結婚式を二ヶ月後に控えた
いつもの休日なら、昼近くになるまでベッドから出ることはない彼だったが、今日は予定よりも早く目が覚めてしまった。
不思議な夢を見たせいだろうか。
満足そうな笑顔で満開の花の中に佇む少女。少女が浩志に向かって何かを言っていた。しかし、彼がその言葉をはっきりと聞き取れず慌てているうちに、少女は澄んだ空の色に溶けるかのように消えてしまった。
浩志は頭上にある時計を手に取る。時計の針は八時を少しすぎた辺り。起きるにはまだ早い。もう一眠りしようと目を閉じた彼だったが、気持ちが落ち着かないのか幾度となく寝返りを打った。しばらくすると、彼は寝ることを諦めたのかベッドを抜け出した。
今日は優との約束のほかには何も予定はなかったが、彼は早々に支度を済ませると、まだ活動を始めたばかりの休日の街へと出かけて行った。
行く宛などはなかった。だが、彼の足は自然と桜並木の街道へと向いている。
(あの子は何と言っていたのだろう……?)
さきほど見た夢を思い出しながら、浩志はぼんやりと歩いていた。街道に並ぶ木々は、どれも枝いっぱいに淡いピンク色の小さな花を付け、春の訪れを喜ぶかのように華やかだった。
(夢の中の花も満開だったな。あの花は、なんと言う名前だっただろうか)
満開の桜たちを眺めながら、浩志はそんな事をぼんやりと考える。彼は今日と同じような夢を、随分前にも見たことがあるような気がしていた。
(あれはいつ頃のことだっただろう)
彼が物思いに耽りながら歩いている桜並木は、大きな坂道の街道になっている。坂の中腹あたりには中学校があり、そこは彼と彼の婚約者である優の母校でもあった。
浩志と優はしばしばこの街道を散歩する。思い出の詰まった街道を歩いていると、まだ幼さが残る学生たちの空気に触れるのか、二人の話題は決まってまだあどけなかったその当時のことになる。
今は一人、街道を歩く浩志だったが、懐かしくまた通い慣れた道の空気が彼の意識をさきほどの夢から引き離し、徐々に彼を思い出の中へと誘い込んでいった。
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