第13話 狩猟

 四次元籠を背負った俺はマシュー君に連れられ村近くの山林にやって来た。




「ではここから昨日仕掛けた罠を見て行きます、ついて来て下さい」




 言われるがままマシュー君について行く。案外、四次元籠は軽い。これなら俺でも荷物持ちはできそうだ。




「あれを見て下さい、レンさん。鹿が罠に掛かってます」




 マシュー君の指差す方を見ると確かに大きな鹿がうずくまっていた。




「今から僕はあの鹿の命を絶ちますから、レンさんはそれを四次元籠に入れて下さいね」




 そう言うとマシュー君は鹿に近づき、鹿の首筋に躊躇なく短剣をサクリと刺した。鹿は苦しんでいる、一撃では死ななかったようだ。


 その光景を見て俺は目を瞑ってしまった。頭の中に、昔、奈良公園に行った時の思い出が走馬灯のように駆け巡る。


 俺が餌をやると人懐っこそうに寄ってくる鹿さん。


 俺に頭を撫でられると気持ち良さげに顔を綻ばせる鹿さん。


 つぶらな瞳で俺を見つめる鹿さん。


 売店で買った鹿さんのぬいぐるみ。


 鹿さん、鹿さん、鹿さん、鹿さん。




「マシュー君、もうやめてあげて」




 気付くと俺は叫んでいた。




「どうしたんですか、レンさん?」


「鹿さんが苦しんでるよ、鹿さんが死んじゃうよ」


「レンさんは優しいんですね、でもこれは仕事ですから見てて下さい」




 プスリ。




 マシュー君がまた鹿さんを刺した。




「ヒーン」




 俺は馬のような悲鳴をあげてしまった。




「レンさんだって昨日、鹿の肉食べたでしょ。美味しく頂いたんでしょ。誰かがやらなきゃならないんです。見てて下さい、こう」




 サク、プス、サク。




 マシュー君が鹿さんをメッタ刺しにする。




「やめてー」


「こうです。ちゃんと見て慣れて下さい」




 プス、サク、サク、サク、プス、プス、プス。




 鹿さんはもう絶命している。




「もう許してーこのサディストー」


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