七海のスマホ
今日は仕事が終わり久しぶりに七海の家に行った。
当然、愛車のステップワゴンに乗って。
「なんかさぁ。最近、もっちんスタイルよくなってない? なんか腕周りとか引き締まっててさ。ねぇ、私は前のぷにぷに二の腕がすきだよぉ。こっち側に戻ってきなさいよぉ」
「まぁね♪これもみんな七海が教えてくれた水泳のおかげ。七海は私からの報酬シャイゼリアンの『プリン&ティラミスクラシコの盛り合わせ』を食べてもっと肥えるがよい」
「じゃ2つと言わず5つくらいおごりなさい! 」
「「ははははは」」
****
「本当に感じ悪くてさ、あのひと! もうやめちゃおうかなって思うくらいだよ」
「でも、もっちんはやめないんでしょ? それにプールでスキルの実力を認められたって言ってたじゃん」
「うん.. そうなんだけどさ」
「なら、好き嫌いは後回しで1カ月くらい我慢してみたら? 」
そう、あの時、器材交換のスキルはかなりうまくやれて、結局、プールまで見に来た片岡さんも『スキルの実力はそれなりにあるね』と認めてくれた。
そのうえで他のスキルを披露したあと、片岡さんはいくつかのアドバイスをしてくれた。
悔しいけど『わかりやすかった』のだ。
そしてそれを意識するだけで自分のスキルが上達したのを感じた。
実際、その時、人間性はさておき『吸収できるものはしてしまおう』とも思った。
でもそんな割り切った気持ちで自分が続くのだろうか?
悩ましいなぁ..
「ねぇ、もっちん知ってる? 」
「え? なに? 」
「聞いてなかったでしょ? シューファのポスターの事だよ。すごくない? 」
「ああ、あれでしょ? ポスター窃盗事件。私もニュース見たよ」
七海はさらに新しい情報をくれた。
「熱狂的なファンがいるんだね。なんでもシューファはアニソン歌手になるって話だよ」
「そうなの? 蘭子もタイアップするって言ってたし、今はアニソンって注目されてるのかな? 」
「どうなんだろうね? でも、この先オタク界のファンもますます出来るんじゃない? 」
「 ..七海、ヤバイよ!! 想像してみて! 『私達は今シューファと歩いています。シューファのファンが「あれ、シューファちゃんじゃない? 」と気づきました』そんな状況だとしたら.. 私たち、シューファの横にいる棒人形にしか見られてないかも.. 」
「なんでそんなこというの! それって悔しいじゃない! 」
「うんっ! 由々しき問題だね!」
・・・・・・
・・
「私、ちょっと、飲み物とってくる! 」
七海が部屋をでると、スマホに着信があった。
テーブルに置いていった七海のスマホが着信音とともに名前を表示している。
『 令次 』
(え? 『令次』って水谷令次のこと!?)
「もっちん『ビタミンB2入りどくだみオーレ』お待たせしました。はい」
といいながらウーロン茶を持ってくる七海。
そしてテーブルのスマホを確認すると.. 後ろに隠したのだ!!
「そんでさ、明里さんもさ———」
七海はいつもの様に最新情報を得意そうに話している。
私は相槌を打ちながら違うことを考えていた。
(なぜに後ろに隠した? しかも令次さんの話題に触れない.. 怪しい.. こうなったら私から令次さんの話題を振ってしまおうか.. )
「そ、そいえば、そうそう、あれ、シューファってさ、あのお月見の夜に泣いちゃってさ。あの後、令次さんに送ってもらったんだよね」
「ん? なんで今さらそんな前の話する? 」
「いやね、ほら、私のせいじゃない? 悪かったなぁって」
「でも、それってこの前会った時に、もっちん もう謝ったじゃん」
「そだっけ? ああ、そうだった。そうそう」
「はは~ん。下手くそだねぇ.. スマホの着信見ての反応がそれか!? 」
「ははは.. そうなの。で、さ、『令次さん』 ..だったよ?? 」
「そ。いま、もう彼以外考えられないの。今も体の芯がすごく熱くなって。ねぇ、私、変なのかな? 」
「え、えー? ま、まぁ、凄く好きならそうなるのかもね? 」
「じゃあ、もっちんもそうなるの? 」
「ばばば、馬鹿なことを聞かないで。私は少し寂しい気持ちになるだけだよ」
「ほほ~.. 寂しいのね.. 」
「な、なに? なによ?! あ、あれなんだから」
「わかった、わかった。ごめん、からかいすぎた。お詫びに白状します」
「え? 」
「さっきの私の発言は冗談だよ。あのね、本当は令次さんがクライアントを紹介してくれているの」
「クライアント? 」
「うん。令次さん、いま看板屋でしょ? 令次さんはイラスト関係の仕事にも関わっているんだってさ。それで私の絵のサンプルをいくつか持って、斡旋してくれているんだよ。ま、多くは私じゃなくてもいいような絵の仕事なんだけどね。でも最近その関係者から直接連絡が入るようにもなってるの。3件くらいね。それに金額が良いのもあるし」
「すごいね。何か兆しっぽい感じだね」
「うん。そうなんだ。令次さんは『がんばって、がんばって、ダメな時はいつでも看板屋の席があるから思いっ切りやったらいい』って言ってくれて」
「へ~、令次さんって良い人なんだね。じゃ、お仕事の電話だったんだね」
「うん。まぁね。きっと打ち合わせの電話だと思う」
「そっか」
その時、七海は高校時代に好きな先輩と電車で隣合わせになって喜んでいたあの頃のような超久しぶりの『恋する女の子』の顔をしていた。
でも相手が軽い令次さんなのが気になるところだ。
哲夫さんとは真逆だから。
世の中何がどう転ぶかわからないものだ..
今度は私が七海のことをいじってやろうかしらね、ほほほ。
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