第5話

終電がとっくに終わっている時間に居酒屋を出たあと、彼女の家に寄るという侑吾と別れ、光太郎と友樹はタクシーを拾うために駅に向かっていた。


「今日は楽しかったな。また行こうね、もちろん2人でもいいけど」

「そんなこと言ってると、侑吾に怒られるぞ」

こんな軽口を動揺せず言い返せるなんて、驚きながらも光太郎は楽しくなっていた。


「光太郎、家どこだっけ?タクシー相乗りできるかな?」

「最寄り駅は新小岩だよ。家は北口のほう。友樹は?」

「え!?俺も最寄り新小岩だよ。早めに家聞いておけばよかったな。俺は南口だから、ニアミスしなかったのかな」

偶然に驚きながら、タクシーに相乗りし、お互いの最寄り駅を目指す。


20分程度で駅に着くと、逆方向なのに、家まで送るよというという友樹の申し出を受け入れた。

今日は3人で色々話せて楽しかったし、なんだかまだこの時間が終わってほしくなかった。


「光太郎が侑吾とキスしてたなんて意外だな。あいつ男もいけるなんて気が付かなかったよ。」

「そんなんじゃないよ。俺がちょっと落ち込んでたから、慰めるつもりでしたんだよ。」

「なにそれ、ますます気になるな~。」


なにがあったか言おうか迷った。これまでの光太郎なら、言おうかどうかなんで迷うことすらなく言わないことだったのに、まだ酔いがさめ切っていないのか、ぽつりぽつりと、話し始めてしまった。


「中三のとき、実は付き合ってた人がいたんだ。男の人で。でもその人に振られて、振られたこともだけど、男しか好きになれない自分にも落ち込んでて。それを知った侑吾が、キスしてきてさ、『俺は恋愛対象は女だけど、男とキスすることに嫌悪感はないし、お前のことを可笑しいとも思わない』っていうんだ。言ってることもやってることもめちゃくちゃなんだけど、なんか嬉しかったんだよ。俺のこと否定しない人もいるんだなって。」


「……侑吾のこと好きになった?」

これまでにない真剣な声で、友樹が光太郎の顔を覗きこんだ。

もう酔いがさめているのか、友樹の顔に赤みはなく、光の加減によって笑っているとも笑っていないともとれるような表情をしていた。

そんな友樹がなんだか色っぽくて、光太郎は少し見惚れてしまった。


「実はちょっと好きになりかけたよ。だってそりゃ好きになってもおかしくないよな。でも恋愛の好きじゃなかった。そのあと侑吾にも彼女ができたし、普通に応援できた」

でも、さっき居酒屋で『キスしたのは可愛かったから』と侑吾に言われて少し嬉しかったことは、黙っていた。


「ねえ、俺は?」

「えっ?」

「俺のことはどうかな?ちょっとはいいなって思わない?」

突然の友樹の質問に、頭が真っ白になって答えが浮かばない。


「いいなって、まだよく知らないし……」

「俺は、光太郎のこと可愛いと思ってるし、ちょっと考えてみてよ、ねっ」


急にそんなこと言われるなんて、と光太郎が戸惑っている間に、家についてしまった。

「別に答えを急かすわけじゃないから、気が向いたとき声かけてよ」

そんなことを言う友樹に、とりあえず送ってくれてありがとう、と伝え、ドキドキが収まらないまま光太郎は友樹と別れた。

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