第3話 side友樹
カフェを出た友樹は、大学生活が楽しくなる予感がしていた。
やっぱりゲイだったか。
光太郎がゲイなのは、この前食堂で話して、なんとなく気が付いたが、これといった確信はなかった。
ただ、光太郎にも言った通り、いつも仲間を見つけたときは、なんとなく感じるのだ。
光太郎は、初対面から印象が良く、口数は少ないながらも、話す内容から真面目さが伝わってきた。正直、パッと見は地味に見えるが、友樹はそこに魅力を感じた。
少し長めの前髪に隠れた大きいながらも少し切れ長の目に、上品そうな薄い唇。染めたことがなさそうな、少し茶色がかった黒髪。
特に指が良い。白くて細い、だけど女っぽいわけではなく、ちゃんと節のある男の指。
あの指が自分のモノに絡んで、潤んだ瞳で上目使いされたら、と思うと、少し興奮する。
それに、俺に対する印象も悪くなさそうだったし。
いや、そこまでは期待しすぎだな、と自分を戒める。
相手は足りているようだし、軽く誘いを断られたからには、しばらく何かが起こる可能性はないだろう。
まあ、出会って数日で立て続けに変な場面を見せてしまったけど、これから友だちとして仲良くしていくうえで、光太郎には早めにセクシャリティの話ができて良かった。
友樹は生粋のゲイだ。中学で自覚したときは少なからずショックだったし、女を抱けないかと試したことはあったが、裸の女を前にしても全くダメで、少しも性的な食指が動かなかった。
もちろん、女の子を可愛いとは思うけど、俺は男しか好きになれないんだと、早い段階で認めることができた。
そこからは、自分がゲイであることを恥ずかしいともなんとも思わなかった。オープンにしたほうが、自分に好意を寄せる女除けにもなるうえ、男に興味がある相手が寄ってくるからと、特に男が好きなことを隠しはしなかった。
友樹は自分の魅力を十分に理解していた。生まれ持った甘いルックスや、180cmを超える高い身長は、男女問わず好印象を与えてきた。
少し軽薄に見えてしまうこともあるようだが、ニコッとほほ笑めば、大体の相手はネガティブな印象を忘れ去ってくれる。
だからか、「俺実はゲイなんだよね、男が好きってこと」と、高校でゲイだとカミングアウトをしてからも、敬遠されるどころか、なぜか自分を隠さないスタイルがかっこいい、とますますもてはやされた。
もともとカースト上位のグループにいたからか、いじめられたり、嫌な思いをしたり、変な目で見られたりすることはなかった。
だがそれは、自分の魅力だけではなく、自分を取り巻く環境や、人に恵まれていたからだ、ということも十分に理解している。
まぁ、そもそも、腫物のように扱われても気にならない。
マイノリティながら、同じセクシャリティの人たちはいるし、周りに何と言われようがどうでもいいことだ。
周りに流されず、確固たる自分の軸がある。それが長所でもあり、短所になりえることも分かっていた。
今付き合っている相手はいない。これまでに何人か、特定の相手と付き合ったことはあるが、友樹はその関係性が自分には合わないと感じていた。
もちろん、ゲイだと自覚したころは、男同士でも恋愛できる、好きな相手と付き合いたい、という理想もあった。だが、最初は気楽な付き合いから始まっても、“彼氏”という肩書になると、途端に相手からの束縛が強くなる。
どこに行くのか、誰と会うのか、いつ会えるのか、いちいち言づけて出かけるのも面倒くさいし、行動を制限されるのも苦手だ。
ここ最近友樹がつきまとわれている悟は、一時期付き合っていた相手だった。
二カ月程度で終わったが、いつもと同じ流れで、徐々に束縛が激しくなっていった。
きっぱりと別れたはずだったが、つい最近ばったり会って一夜を共にしたせいで、またしつこく迫ってきて困っている。
別れを切り出したときは、あっそ、なんて言ってあっさり離れていったくせに。
今となっては、特定の相手を作るのはやめた。今夜もこれから、セフレの一人とデートの予定だ。待ち合わせ場所に、今夜の相手を見つけた時、友樹はすでに光太郎のことも悟のことも忘れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます