19.散りゆく者に賛美歌は聴こえない
「えっ――」
レベッカから、困惑の声が出た。腕にかかる重さに、滴る液体がレベッカのドレスを染めていく。
「ガッ――ゴホッ」
口からは黒く、粘り気のある、――大量の血が少女から溢れる。
吐血がレベッカの顔に降り注ぎ、鉄の臭いが鼻腔を刺激し、むせ返るような不快感を叩き込む。
レベッカに向かって倒れ込んだ少女の喉に、――鋭い刃を形成したマジックスティックが突き刺さっていた。
爆風とともに吹き飛ばされてきた何かで体勢を崩した少女が、前のめりの形でレベッカに覆いかぶさる形となった。
そのタイミングで、レベッカの持つマジックスティックに備わっていた魔石が反応し、空間を分断する不可視の刃が発生させ、その刃に、自身の体重をかけて喉元に深々と突き刺さった。
「クッソ。女狐め、思いっきり殴りやがって……」
少女の身体の向こう側に、全身を黒い包帯で覆った人影があった。
背中越しでもわかるほどの瘴気に、レベッカが息を呑む。
メリー自身、背後の惨劇を気に留めない――気付かないほど血気に逸っていた。
ジャラジャラとした鎖を束ね、先端に付けられた鉄杭をクルクルと振り回したかと思うと、土煙の先へと投げつけた。
そして、レベッカには目もくれず、再び向こう側へと戻っていく。
――残されたレベッカが、唐突に自身の現実へと引き戻される。
「ゔぅ、お゛ぉゔぇ、ゔぇえ゛え゛――」
あまりの精神的苦痛に、レベッカは湧き上がる吐き気を抑えきれず、嘔吐を繰り返す。
ドサリと倒れた少女の身体は、すでに生命活動を停止していた。それでも、喉元からは血が溢れ出る。
レベッカが杖を手放したことにより、不可視の刃は形状を崩壊させたことで、傷口が抑えるものがなくなり、出血量が多くなった。
全身にこびりつく血の臭いが、全身を濡らし、ドレスを染める鮮血が、レベッカの心を揺さぶっていく。
――殺した。殺した。殺した。殺してしまった。殺してしまった。殺してしまった。
その事実だけが、レベッカの脳内を駆け巡る。
名前も知らない、けれどレベッカのように貴族として何不自由なく生きてきた少女が、今目の前で、――レベッカの手の上で、息絶えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます