第160話
160
既に光線を放っているドライヤーガンだ。もうそんなに長い時間は持たないだろう。軋む体を押して、キヨラは次に放たれる攻撃を避ける。大きな岩が体のスレスレを横切り、ひやりとしたものが背中を伝う。……もしさっきのに当たっていたら、じぶんはきっと、こうして息をしていないだろう。キヨラはそんな恐怖を飲み込み、気丈にも彼を睨み上げた。
「トオルちゃんを返して!」「そんなに返してほしくば、力づくで取り戻してみろ!」たくやの声に、地面が共鳴する。土の中から出てきたのは、人の形をしたゾンビのようなものだった。蠢くそれらに、キヨラは素早くgunの引き金を引いていく。家の特訓で身に着けた射撃の腕は、伊達じゃない。それよりも弾切れの方が、キヨラは心配でたまらなかった。激しい攻防が宙を行き交う。連続での戦いで満身創痍だったキヨラは、たくやの攻撃を避ける事で精一杯だった。岩を避け、足を掴もうとする亡者たちのおぞましい手から跳躍し、逃げるキヨラ。
161
体力はもう、限界だった。薄れそうになる意識を引き戻して、キヨラは歯を食いしばり、狙いを定めた。「これで終わりよ!」踏み込んだ足がバランスを崩し、ぐらりと揺れる意識の中。最後の抵抗だとばかりにキヨラは渾身の弾を打ち放った。——しかし、それは虚しくも外れ、たくやの足元を貫いた。キヨラの顔が絶望に染まる。彼女の持つドライヤーガンの充電は、残り僅かだというのにこのタイミングで外れてしまうなんて。「そん、な……!」「ハッ!
馬鹿な奴だ。最後の弾を外すなんてなァ!」高らかに笑うたくやの声が、キヨラの耳を劈く。キヨラは初めて敗北するのではないかと焦りを覚えた。
——せめて、トオルだけは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます