第156話

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満身創痍のまま、森の中を走って行くキヨラ。いつ気づかれたのか、後ろから追いかけてくる人々の怒号に震える足を叱咤して、キヨラは走り続けた。向かう先なんてわからない。けれど、蔵が頂上に近かったという事は、麓に降りていけばどうにかなるはず。キヨラはとにかく足を動かした。木々に服を引っ掛けながらも、振り切るように走り——「見つけた!」遂に目的の家を見つけた。その時にはもう、キヨラはみすぼらしい姿ではなく、いつものコスチュームを身に纏っており、手にはドライヤーガンを持っていた。




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「待ちなさい!」扉を叩く直前、キヨラは見えたその背中に声を上げる。ゆっくりと振り返ったのは、トオルをその両腕で抱いた男——『縁組みマシン

たくや』だった。「やあ。随分と早かったじゃないか。そんなに僕の路線図は簡単じゃなかったと思うんだけどなァ」たくやはほくそ笑む。——そう。さっきまでの幻影は、彼の術だったのだ。“阿鼻叫喚”を敷き、“宿る陰”で周囲の人の心に陰を宿らせた。そこから始まる、“妃餓死”の術。生贄を餓死させる作戦だ。“待つ蟲”は飯に掛けた幻影で、“水神ノ森”は深い深い森の奥で孤独に幽閉することを意味する。その他にもたくさんの術を重ね合わせた結果、あのような地獄が行われ——キヨラはその術を一心に受けることになった。ボロボロの体は、今にも崩れ落ちてしまいそうだ。しかし、目的としていたトオルが目の前にいるのだ。こんなところでくたばるわけにはいかない。

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