第104話

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「初めまして。よろしくお願いします」——転校生だ。秋も後半になり始めた、珍しい時期にニコリと笑って教室へと入って来た男子生徒に、女子から黄色い悲鳴が上がる。整っている顔に、整えられた髪。話し方も優しく、同級生にしてはどこか大人っぽい。世の中の“美男”というのは、まさに彼の事を言うのだろう。そんな事を思いながら、キヨラは隣の席へと座った転校生へと笑みを浮かべた。「よろしくね。何かわからない事があれば、遠慮しないで聞いて」「助かるよ。よろしく」ニコリ。優しく微笑む彼にキヨラは好感を持ちつつ、まだ手にできていないという教科書を見せる為、席をくっつけた。美男美女の背中に、クラス中が『お似合い』だと持て囃すまで、そう時間はかからなかった。




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クラス中の女子の視線に晒されながら、転校生——『全て逆解釈するマシン わたる』は、笑顔の奥でほくそ笑む。彼はキヨラを付け狙う『陰陽師

はれあけ』の候補者の一人だった。数日前、蒸発してしまった候補者の話を聞き、今度は自分の番だとキヨラに近づいてきたのだ。


『全て逆解釈するマシン わたる』は、キヨラを自身の狗神にして使役しようと考えていた。彼女が狗神にさえなってしまえば、自身への脅威が無くなる上、候補者として頭一つ抜き出ることが出来る。それはわたるにとって、大きく意味のある事だった。だからこそ、こんなに面倒な手続きまでして彼女と同じ学校に忍び込んだのだ。そしてわたるの作戦は、上手くいったも同然であった。隣で呑気に教科書を覗き込んでいるキヨラを横目に、わたるは静かに術を練り始める。授業に集中しているらしいキヨラは、気づく様子はない。わたるはゆっくりと口を開いた。

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