第72話

072

「く、そぉお……ッ」どうしてこんなことになった! 自分はちゃんと計画してやっていたというのに! まきを拾ったのも、どうでもいい人間に愛想を振りまいて着実に術の餌食にしてきたのも、全ては計画のうち。全て、自分の思うがままだったはず。——それが、どうしてこうなった。どこで間違えた。ぐるぐると回る思考が、一つの答えに辿り着く。それは自分の姿を変えた張本人であり、この事態を引き起こした元凶。「……あいつだ……あいつのせいだ……!」紀眞家の娘——キヨラが、弱いくせに姑息な手を使ってきたからだ! アイツさえいなければ、自分はもっと大きくなれた。陰陽師として更に名を馳せ、いずれ『殺人マシン ごろう』の名前すらも自分の物に出来たはず! 「許さん……! 許さんぞおぉぉ……っ」恨みを孕んだ言の葉が、肉の壁に圧し潰されていく。ゆづるの姿かたちは既に保てなくなっていき、手足は黒い霧に攫われていく。体が徐々に霧の中へと吸い込まれて、顔は右半分しか形を保てていなかった。「おれは、ま、だ——」強い意志も半ばに、ぷつりと途切れる声。残ったのは、醜い人間の塊と醜い欲の名残だけ。——『ブタにするマシン ゆづる』は、その日を境に完全に消滅した。




073

その様子を、まきだけが少し離れた場所で見ていた。伝う涙は、解放された安堵か、それとも——。

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