第44話
044
一撃でごろうを砕く事に成功したキヨラは、完全に電池の切れたドライヤーガンを片手にトオルへと駆け寄る。はあ、はあ、と荒い息を繰り返しながらも茫然と立ち尽くすトオルをぎゅっと強く抱き締めて、「ありがとう」と笑った。「キヨラちゃん……」緊張の糸が切れたのだろう。涙ながらにキヨラの名を呼んだトオルは、今にもへたり込みそうで。キヨラはトオルの頬に流れた涙を指先で拭う。目が合って、どちらともなく笑みを浮かべた。「あ、ははっ」「ふふっ」ボロボロと涙を流す中で、小さなわら声が二つ響いていく。——終わった。終わったのだ。“殺人マシン”なんて異名を持った人間を、倒すことが出来たのだ。込み上げる安堵に、トオルは再び地面に座り込んでしまった。しかし、先ほどの冷たさは感じられなくて。少しの間笑い合った二人は、感極まって互いを抱きしめた。温かい温もりに、トオルは強く抱きしめる。この時ばかりはキヨラへの“想い”も、前に出てくることはなかった。「トオルちゃんなら素敵な漫画家さんになれるよ、絶対」「うん。キヨラちゃんも、モデルになれるって、私信じてる」「ふふっ、ありがとう」
——『殺人マシン ごろう』は、以降二度と二人の前に顔を出すことはなかった。
045
『殺人マシン ごろう』との闘いから数日後。トオルは何時にも増して漫画を描くことに力を入れていた。
あの後、キヨラに言われたのだ。「今度、トオルちゃんの漫画読みたいなぁ」と。それがトオルは嬉しくて嬉しくて堪らなかったのだ。授業の合間を縫ってまで描き始めた漫画は、今のところ順調に進んでいた。クラスメイトからは少し遠巻きに見られたが、それすら気にならないくらいには没頭していたのだ。
「熱心だね」「うん。早くキヨラちゃんに見せたいから……」「ふふっ、すっごい楽しみ」上機嫌に笑うキヨラに、顔がかぁっと熱くなる。可愛らしい笑顔が至近距離で見えて、思わず目を逸らしてしまった。「でも、授業はちゃんと聞かないとだめだよ」「う、うん。そうだね」キヨラの注意に曖昧に頷いて、再びノートに視線を移した。響くチャイムに、トオルは顔を上げる。続きのストーリーはどうやらお預けのようだ。
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