4. アンジェに呼び出されて
ランチ営業で働いていたら、お店の引き戸がトントンと音を立てた。何事かと思った晴継が戸を開けたら、そこにはアンジェが立っていた。最初はまたイタズラかな? と思った晴継だったが、お店の前に出て一気にそんな考えは吹っ飛んだ。道の真ん中に女性が倒れている。急いで駆け寄って、さらに驚いた。晴継にとって知っている人だったからだ。
いつもと服装や髪型は違うけれど、黒縁のメガネにタヌキ顔の新垣恵里佳さんだった。学籍番号が一つ違いで、席指定の講義では隣同士ということで知らない人ではなかった。
「私、よく“あらかき”とか“しんがき”とか読み間違いされるんです」
「分かります。俺もたまに“あらた”と呼ばれる時があります」
ある時、お互いに名前で苦労している“あるある”で盛り上がった事がある。いつも一人でオドオドしている事が多いけど、話してみたら控えめながら笑うし落ち着いて受け答えをしていたから、話しやすい人だなとは感じた。
どうしてここに居るか分からないけれど、見た感じ明らかに具合が悪そうだったし、何より倒れて動けないのが決定的だった。咄嗟に背中におんぶした晴継は、すぐにお店に連れていき智美さんに事情を伝えた。智美さんは驚きながらも端的に指示を出してくれ、頭が真っ白だった晴継も智美さんの指示のお蔭でスムーズに動けた。
二階の休憩室にはお客様が突然具合が悪くなった時に備えて、布団一式が押し入れに保管されていた。それを敷いて、新垣さんを横にさせる。晴継が最寄の自販機にスポーツドリンクを買って来る間に、智美さんは服を緩めたり氷を当てたりしてくれていた。涼しい部屋で横になっていた新垣さんは先程から少し顔色が良くなっていた。
スポーツドリンクと道に落ちていた新垣さんの物と思われるスマホも渡し、「もし具合が悪くなったり何かあったらこの番号に掛けて」とお店の電話番号が書かれたメモも一緒に添えて、晴継は部屋を後にした。
ざわつくお客様
今回の件で、一番の功労者は何といってもアンジェだ。最初イタズラかなと疑ってゴメン。初めて来た時に智美さんが『アンジェは賢い子』と言っていたのは本当だったんだ、と再認識した。
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