第二話 馴れ初め

 婚約破棄を伝えられてから数日後、ふたりは両家に伝えるタイミングを話し合うために密かに会っていた。


「色々と話す前にわたくしは真実の愛について伺いたいのです。だって本当に素敵なお話ではないですか」


「そう思うのも無理はない。よし、いいだろう。お前には特別にすべて話そう。何が聞きたい?」


「おふたりの馴れ初めを伺いたいですわ。きっと素敵なお話でしょう」


「馴れ初めか……。少し照れくさいな。でも教えてやろう。なぁに単純なことだ。私がケリーの魅力にやられたってことだ」


「身分の違いもありますでしょう。そこを越えたタイミングがあったのではないですか?」


「ある時ケリーに用があってケリーの部屋まで行ったんだ、何度名前を呼んでも返事がないのに物音がするので部屋に入ってみたらケリーが着替えていた。笑える話だが、そんなことが偶然何度も起ってしまったんだ。それからケリーのことしか考えられなくなった」


「偶然……ですか。相思相愛だとわかったのはいつなんですか?」


「もう一年前にもなる。ケリーが私のことを好きだと言ってきたのだ。正確には『慕っている』と。表情はまさに恋する乙女だった。その日に心も体も結ばれたのだ」


「なんてロマンチックなんでしょう。まさに真実の愛ですね」


(恋する乙女って年齢でもないでしょう。というか体使って骨抜きにされただけか……。本当になさけない男)


「殿下、陛下にお伝えするのはいつになさるおつもりですか?」


「私は正々堂々と伝えようと思う。父上が公務から戻られた日に、家族での食事の場で伝えるつもりだ」


「殿下、それはなりません。失礼ですが、家族だけがいる場で伝えるなど一番の愚策です」


「なぜだ? 愚策とまで言うからにはそれなりの理由があるのだろ?」


「もしご家族だけの場でケリーさんとの愛について報告したらどうなりましょう。きっとケリーさんは追放されてしまいます。この話はなかったことにされてしまうのです。もしケリーさんの身に何かあったらと思うとわたくしとても心配です」


「なるほど。確かにそうだ。父上ならそうするだろう……。ではどうすれば良いのだ?」


 アントミーは険しい顔をしながらそう質問した。


「なかったことに出来ない場で報告すれば良いのです。ちょうど陛下も殿下もわたくしも参加するパーティがあるではないですか。その場で皆の前で高らかに宣言するのです」


「なるほど! そうすればなかったことには出来ないな。よし、決まりだ!」


「殿下、わたくし本当に応援しております! 真実の愛がどんなものかもっと知りたいです。当日が楽しみです」


(ふふっ、本当に楽しみですよ。皆の前で婚約破棄なんて。どう考えたってあの女は金と地位が目当てのだけなのに。そうじゃなければこんな馬鹿な男を誰が好きになるのよ)


 そうしてあっという間にパーティ当日となった。

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