夜明けのまにまに

AL Keltom

本編

1,始まり



 ――気が付くと見知らぬ天井だった。




 いや、よーく見るとそれは天井でも天蓋ベットの天井だ。

 俺は今、薄青を基調としたヨーロッパ風の天蓋ベットに寝ている…



 ――はて?ここはどこだ?



 俺は日本のしがない営業サラリーマンだったはずだが、これは出張先でのスイートルームだろうか?

 いやそんなはずはない。うちのブラックな会社が出張でそんな出費をするはずがない。


 ぼんやりとした頭でそんなことを考えていたが、段々意識が覚醒してきておもむろに体を起こしてみる。

 辺りを見回すと覚醒した意識だとしてもさっきと同じことが頭に浮かぶ。



 はて?ここはどこだ?



 俺の周囲にはテレビで見たような貴族の屋敷にあるような装飾品、豪華絢爛とまでは言うまい。しかし、現代日本での生活ではお目にかかれないような品であることは間違いない。



 ――そして、いよいよ意識がはっきりしてくる…




 もしかしてあれなのか、小説とかである異世界転移というやつなのか?

 はたまた俺は死んでここは天国か何かか?

 実は病院のベットだったなんて落ちもありえる。

 だとするなら、俺はどれなのかといえばの天国方がいい。


 もう生きるのは疲れた…

 死にたかったわけではないがもう生きたいとも俺は思わない。

 毎朝5時には家を出て家に帰るのは夜11時、仕事内容はそこそこ面白かったが人間関係が最悪だった。



 いや、訂正しよう。仕事内容も最悪だった。

 俺は人と話そうと思えば話せるほうだが、それは話す内容がある時だ。

 特に初対面の人と世間話をしたり、雑談するといったことは大の苦手だ。

 営業職はそういったスキルが大切だ。なぜなら印象が大切だからだ。


 それが苦手だった俺は営業成績も振るわなかったせいでもあるが、上司には怒られ、仕事や責任は押し付けられとにかくもう嫌だった。


 だいたい人間に生きる意味なんてあるのか?

 何のために俺たちは生きているのか?生きてどうするのか?

 少なくとも俺にはそんなものも生きる意義もよく分からない。


 別に死にたがりではない、生きたがりでもないが

 別にもうどうでもよくなっていた――



「――目覚めたようね。」


 それは突然、装飾品が散りばめられた部屋に響いた。

 聞いたことない音声言語だったが何故か意味は理解できた。


 気が付くと部屋の反対側の扉から三人の女性が立っていた。

 その上品な声色は中央にいる女性の声だろう。


 俺は声がした方向に首を振る。

 そして俺は中央の女性…ではなくその左奥に居た女性に釘付けになった…




 ――犬だった…



 それは小説やアニメで見る耳と尻尾だけの獣人ではなく、顔の形が完全に犬のものだ。

 背格好は三人組の中で一番高く、薄暗い部屋の中で顔と首元の白い毛が目立つ。

 それは、顔や手には白と黒の体毛が程よく生えている。

 彼女の尻尾は元気いっぱいに左右に振れていた。

 そして、黒の主張控えめなゴシック服を身にまとっていた。



 この時点でもうすでに俺は察した。少なくともここはもう日本ではない。


 天国か異世界のどちらかだろうだろう。俺はそこまで鈍感ではない。


 中央と右奥に居た女性はおそらく人間だろう。でも耳が動物でも長かったりもしない。

 右奥の女性も獣人と同じような服装をしている。コスプレではなさそうだ。

 そして中央に居た女性が口を開く。


「あんた、どこみているのよ?私を見なさいよ!」



 ツンとした雰囲気をまき散らしながら女は言った。

 さっき印象が大切だという話をしたが、俺のこの女の第一印象はそう

 高飛車だった。


 高圧的で俺の苦手なタイプの人間だ。あのくそったれな上司を思いだす。

 しかも最後の一言で自己顕示欲が強い人間なのだろうなどと考えみる。


 俺が少し不服そうな顔をして女の顔を見ると女は続ける。


「私はリングハルト・メイスザーディア、長いからメイと呼びなさい!」



 相変わらず不遜な態度で彼女は言った。

 それが彼女との出会いだ。




 ――外はまだ夜明け前だった。

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