第164話 九州勢力への備え

七騎坂に差し掛かり、元就も何か思うところがあるのか表情が暗い。

「……やはり、我らもここで」

「いえ、お待ちください父上! 早まってはなりません!」

隆元は元就を必死に止める。


「ここを、覚えておいでですか?」

「……無論じゃ。忘れるわけがなかろう。渡辺殿と7人の家臣を喪った地じゃ」

「なぜ渡辺殿が散ったか、父上もお分かりいただけるでしょう?」

「……そうじゃったな!」

元就の表情がキリッ、と活力が戻ってくる。


「父上、兄上、尼子が迫ってきております!」

隆景が元就と隆元に向かって言う。

「とにかく、尼子を撒き、吉田郡山城に戻って立て直すぞ」

元就は威勢よく言った。


それぞれの隊が、散り散りになって吉田郡山城への帰路を目指す。

あえてばらけさせ、尼子を錯乱させるのが目的であった。


「悠月、僕たちは……」

「隆元様に着いて行こう!」

悠月と松井は隆元の後を追った。


元就は馬を走らせつつ、脳裏で作戦を描いていた。

今度は九州の大友までもが敵に回る……。

九州の防衛は誰を回すべきか……。

隆元には、やはり何かあれば後事を頼みたい。

だからこそ、近くにいて欲しいが……。


元春であればどうか……。

元春は山陰地方での軍事司令を担当している。

しかも、彼は勇敢だから戦となれば自分から切り込んでいってしまうだろう。

それに、元春は非常に愛妻家で子供も二人いる。

恐らく、九州に近い場所へ進軍してもらうとなれば、新庄局が嫌がるであろう。


隆景ではどうか……。

だが、隆景がいるから、今も水軍は統制できているし、村上水軍などいわゆる海賊たちも協力をしてくれている現状がある。

それに、隆景自身も城下町の民たちに慕われているし、民たちを愛している。


継室の子たちはどうか……?

だが、誰も元服する前の子どもである。

子どもに戦を指せるものではないな、と元就は考えを一瞬で打ち消した。

元就は結局、吉田郡山城へと辿り着くまで結論が出ることはなかった。


吉田郡山城へと撤退を命じて数日。

隆元たち三兄弟は、元就に呼ばれていた。


「先の戦の撤退前に聞いたと思うが、今後は九州からの攻撃も十分にあり得る。そこで、備えとして対応に当たってもらう」

三人は誰が行くのか、とお互いを見た。

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