第129話 幸鶴丸のおねだり

幸鶴丸は城に隆元がいるという事実が嬉しいのだろう。

どこにもくっついていこうとする姿がたびたび見受けられた。


「父上―」

「幸鶴丸、父上はお仕事があるのですよ。後になさい」

「やーだー! 父上と遊びたい!」

「これ、幸鶴丸。ちゃんと母上の言う事を聞かねばならんぞ」

隆元は穏やかに諭すように注意をする。

「父上―」

それでもまだ幸鶴丸はねだるように言う。

「仕事が終わったら、の」

「……はい」

幸鶴丸はようやく諦めた。


「じじ上―」

今度は元就の元へとパタパタ走る。

「おお、幸鶴丸。どうしたんじゃ」

元就は頬を緩めて幸鶴丸を抱き上げる。

「じじ上と遊びたい!」

「そうか。少しならまあ良いじゃろう。何をしたいんじゃ?」

「ご本を読んでほしいの」

「おお、さようか。良いぞ」

元就は上機嫌で本を読み聞かせる。


だが、本を読み聞かせしている間に幸鶴丸は眠ってしまった。

「おやおや、寝てしもうたのう」

元就はそう言うと羽織をそっとかけた。


「父上」

隆元は元就のところへと訪れる。

「おや……、幸鶴丸が」

「本を読んでほしいとねだっておったから、読み聞かせをしている間に眠ってしまってのう。こういうところは、隆元の子どもの頃を思い出して、悪い気はしないのう」

「……、少し、恥ずかしく思います」

隆元は照れ笑いする。

「ところで、何か用じゃったかの?」

「ええ、先日の事で。それと、今後の件で相談に」

「ふむ」


廊下からざわざわと声がする。

二人の影が障子越しに見える。

悠月と松井が掃除をしているようだ。

「若いもんは元気があるのう」

元就はしみじみと言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る