第86話 冷やかし

6月になり、蒸し蒸しとした空気になってきた。

そんな中で、大内義隆は、神辺城へ総攻撃を命じた。

だが、総大将として遣わされていたのは、陶晴隆であった。


「総攻撃か」

「無理をするでないぞ」

隆元は元春をたしなめる。

「もうとっくにあの時のケガは回復しておるぞ」

元春は苦笑いした。

「お主は新婚じゃろう」

隆元はからかうように言った。

そう、新庄局という妻ができたのだから、討ち死にという警告の意味で言ったのである。

なお、隆元はこの時は未婚だ。


「けど、隆元様もでしょう? 無理はしないこと!」

悠月がからかうように言う。

そう、隆元は毛利家の長男。

元就が隠居宣言した以上、今や当主である。

とはいえ、実際はほとんど元就が実権を掌握しており、だからこそ隆元も当主という立場を受け入れたのである。


「確かに、ワシも気をつけねばならんが……、元春ほど勇猛な性分ではないからの」

「わざわざ引き合いに出さんでもいいじゃろ」

面白がっていう隆元に、元春は苦笑いして抗議した。

「……、本当、仲のいい兄弟ですね」

松井は少しうらやましそうに言った。


元春は盛重との再会を少し楽しみに思っていた。

また一戦交えるかもしれない、そう思いつつも。


「神辺城はもはや孤立しております」

戦況を見た隆景は冷静に判断する。

「守兵はどれくらいか……」

「およそ1000~1500というのが妥当かと思います」

「うむ、数では圧倒的に優勢だ」


陶晴隆が5000余騎を率い、さらに毛利元就と毛利隆元・吉川元春・小早川隆景・平賀隆宗・宍戸隆家・香川光景らの兵を加えた10,000余騎、おおよそ15000騎~16000騎の兵力がある。

だが、油断すれば策に溺れ、敗戦するだろう。


「皆の者、気を抜くでないぞ!」

陶晴隆がそう言って鼓舞をする。

「おぉー!!」

大きな鬨の声が上がった。


「あの手練れの物はまたおるかな?」

元春はより気合が入った。

隆元はその様子を苦笑いで見守った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る