第83話 一騎打ち

「元春」

隆元は、それとなく声をかける。

「大丈夫じゃ、兄上」

「しかし……」

「見届けようぞ、隆元」

元就は元春の行動を咎めない。


隆元は渋々身を引いた。

「ありがとのう、兄上」

「気を付けるんじゃぞ」

「おう!」

そして、杉原盛重と向き合う。


「待たせたのう。毛利家次男、元春と申す。お相手いたそう!」

杉原盛重も元春も刀を抜く。

一騎打ちの姿勢である。


「いざ!」

二人は、幾度となく刀をぶつけ合う。

松井も悠月も、思わず息をのむ。

隆元ははらはらとした様子で弟の無事を祈っていた。


激しい戦いの最中……。

ガキンっ!

杉原盛重の刀が、耐えきれずに折れた。

そして、元春の刀が盛重の喉元ギリギリに突き立てられる。

「降参せえ」

「……ここで降参しては、武士の名折れ……」

だが、元春はそれ以上攻撃する意思を見せない。


「退け」

「……」

盛重は大人しく身を引いた。

だが、城を落とすことは、今回も叶わなかった。


元春は陣に引いた後で治療を受けた。

やはり、無傷でということはできぬほど、盛重はとても勇猛な人物だったようである。


「父上、あやつは強いぞ!」

元春はやや興奮気味に言った。

「確かに、そのようじゃのう」

元就は元春の言葉にうなずく。

「何とかして、こちら側に引き込みたいのう」

「そうか。ならば、策を立てねばならんじゃろうな」

元就は策について考える。


「あやつ……、元春、というたか。あの者、なかなかやりおる!」

盛重は傷の手当てを受けながら、元春の事を思い出していた。

「まっすぐな男じゃ」

不思議と、元春の事を考えていた。

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