第70話 別れの日

悠月は松井と共に部屋の縁側に座った。

「どうしたんだよ、改まってさ」

「悠月、僕は……」

「うん」

「……徳寿丸と一緒に、ここを出るよ」

「そっか」

ズルッ、と滑る音に悠月はキョトンとする。


「そ、そんなあっさり……!」

「ハハ、寂しがって欲しかったのか?永遠に別れるわけじゃないし」

「わざわざ言う!?」

「まあ、毎日のように顔を合わせてたんだ、寂しいに決まってる。けどさ、徳寿丸はもっと寂しいだろう? まだ子どもなのに親元を離れなきゃいけないんだからさ」

「それはそうだけど……!」

「でもさ、支えてくれる人がすぐそばにいる、それなら徳寿丸も松井も頑張れると俺は思うよ」

「悠月……!」

「徳寿丸は将来的に、偉い奴になる。だから、変な気は起こさずしっかり支えてやれよ」

「……うん」


徳寿丸と松井、さらに御伴の数人は数日後竹原へと旅立っていった。

「悠月、くるみちゃん、手紙書くからね!」

「ええ、待ってるわ」

くるみは照れ笑いして見送る。

「おう! 俺もちゃんと手紙書くから!」

二人は最後にハイタッチをし、別れた。


「行っちゃったね」

「そうね……」

二人は少し寂しいと思いつつ、元就たちと城の中に戻る。


それから間もなくのことである。

たびたび、備後の神辺城付近は戦に巻き込まれるようになっていた。

まだ子どもの身である徳寿丸を戦場に出さないよう、松井は気を張っていた。

「松兄様、私も戦場に……」

「いや、徳寿丸はまだダメだよ」

「私は小早川の当主になるのですよ?」

「だからこそ、ここで何かあってはいけないんだよ」


徳寿丸は松井の気持ちを受け取る。

だが……。

「ならば、城からは出ません。代わりに、ここから指揮を取らせてください!」

「ちゃんとできるの?」

「雪合戦で兄上を策に嵌めたことはありますから、その応用をしていけばいいのです」

「ゆ……、雪合戦……」

松井は苦笑いして承諾した。

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