第27話 不穏な心

元就にも、戦況の知らせが到着した。

「うむ……! 首尾よく運んでおるな」

「ですが、まだ南側の尼子がおりまする」

「あちらには隆元がおる。あれはワシの血をしかと継いでおる。問題はなかろう」

「左様にございますか」

「ご苦労であった。下がって体を休めよ」

「ありがたきお言葉! 失礼いたします」

伝令兵は元就に頭を下げ、部屋に下がった。

元就は一般兵にも優しく接していた。


一方で南側。

ここでは、激しく戦が繰り広げられていた。

毛利方の方が、兵数そのものは圧倒的に尼子には劣っている。

だが、彼らにはそれを押し返すだけの策がある。

元就から策を預かっていた隆元は、それをもとに部下たちを指揮していた。


「ぐっ……! ここまでやるとは……!」

「撤退だー! 撤収する!」

尼子方は不利と理解するや否や撤退していく。

「追撃だー! 追え!」

「否。ここは大人しく撤退させておけ」

「しかし、若様!」

「もし待ち伏せがあれば、我が方がさらに被害を受けよう。ここは見送る」

「かしこまりました」

やはり、隆元も元就の息子である。

相手が、万が一策を練っていた時のことを考え、追撃は許さなかった。


「……ここまでは歴史の通りだ。松井の言うようなぶち壊すことは起きてないな」

悠月は少し安堵する。

だが、この先が怖いのだ。

史実では数日の間が空き、尼子軍は本陣を青光山に進出させ、湯原宗綱・湯惟宗らは青山、高尾久友・黒正久澄・吉川興経は光井口に陣取るのである。

松井が唆しさえすれば、恐らくはどこかしらが崩れてくることだろう。


ちなみに、今尼子の隊と行動を共にしている吉川興経は、のちに吉川元春の養父となる人物である。

なぜ尼子に付いているかというと、当時の安芸では、近隣の大勢力である大内氏と尼子氏が在地勢力を巻き込んで抗争を続けていたが、興経はその時々の形勢によって大内・尼子両陣営の間で鞍替えを繰り返した。

その為、今は尼子に付いている、と言うわけである。

家を保ち続けるためには必要な事であったのは想像に難くはないのだが、やはり周りも印象は悪かったようだ。


その一方で毛利は元就の代より大内方である。

大内義隆の元へ、一時期嫡男である隆元を人質に送ったことで元就は信頼されている。

そう言った観点も踏まえ、悠月は松井の動向が怖く思うのであった。

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