歴史冒険記~毛利史回顧録~

金森 怜香

第1話 山登り


時は現代。

歴史好きの青年、長谷部はせべ 悠月ゆづきはある場所へと訪れた。


そう、かつて【安芸の国】と呼ばれた、現在の広島だ。

彼は何を隠そう、歴史で一番好きなのは毛利家であった。


「毛利と言えば、安芸高田、まずはここだな」

彼が向かったのは、毛利家が居城としていた吉田よしだ郡山こおりやまじょう


だが、1615年に江戸幕府が出した一国一城令により吉田郡山城も取り壊され、1637年に島原の乱が起きると、キリシタンの決起を恐れた幕府によって、石垣や堀なども破却・撤去されたと言われているので、今は城跡と言っても見る影はない。

見た目はほぼ、普通の「山」である。


「さてと、地図ももらったし。登るか」

麓には、二つの墓所がある。

毛利元就及び一族の墓所、そして少し離れたところに毛利元就の嫡男であり早逝した毛利隆元の墓所。

悠月はまず、元就公の墓所へと手を合わせる。


「これが有名な……、百万ひゃくまん一心いっしんの石碑? 一日一力一心とも読めるな」

なお、悠月は後から知ったのだが、百万一心の碑は、「百」の字の一画を省いて「一日」、「万」の字を書き崩して「一力」とすることで、縦書きで「一日一力一心」と読めるように書かれていたという。

「日を同じにし、力を同じにし、心を同じにする」ということから、国人が皆で力を合わせれば、何事も成し得ることを意味している。


「本格的に山登るんだな、ここ……」

悠月は苦笑いしながら登っていく。

さすがは、山城といったところだ。

なかなかに坂は急である。

だが、ある程度は整備してあるから、平坦になっていると思えば、V字のような道にもなっている。

「これでもまだ序の口……、お! ベンチだ。少し休憩するか」


ベンチの奥には、視界が開けている。

安芸高田の町が見えた。

「良い景色だな……。だが、本丸はまだ先だな」

改めて地図を確認する。


「もっと登るんだな……。まず御蔵屋敷跡みくらやしきあとか。確か、兵糧庫……だったか?」

御蔵屋敷跡は、三の丸から連なる帯曲輪(釣井つりいせき勢溜せだまりせきの間)にあったとされる兵糧庫である。

つまりは、食料を保存していた場所になるはずだ。


「さてと、続きを登っていくか」

御蔵屋敷跡に着いて、驚く。

「石垣の跡みたいなものが散乱してるな……。それ以外本当に案内板と石碑以外なんもない!」

東側に回ると、さらに石が大量に散乱している。

なるほど、島原の乱の後で徹底的に吉田郡山城が破壊された跡のようだ。

「キリシタンの決起を恐れたから、とは言われているけど恐らく島原の乱がなかったら、もう少し残ってたんかな?」

ふと疑問に思った。

「リアルにつわものどもが夢の跡、だな。これはこれでロマンがある」


次に行こう、と案内看板を見る。

「次は三ノ丸か」

そこは一体どうなっているのだろうか?

御蔵屋敷跡でこれだけの有様だ、きっと三ノ丸も凄いことになっているのだろう。

悠月はそう思いつつ、少しずつ足を進めていく。


「うわ、三ノ丸の方が石垣の跡も見る影がないな……」

それもそのはず。

石垣を徹底的に破壊したのには、立て籠もり防止の意味も含まれていたというからだ。

「まあ、百姓たちが団結して一揆、となったらそりゃ幕府とかからすれば脅威だった、ってことなんだろうな」

なぜか妙に腑に落ちる。


なぜか、頭が急にチカチカとしてくる。

「ちょっと座れる場所ないかな……」

少ししゃがんで休憩する。


『敵方の軍勢はおよそ3万! こちらは兵士すべて合わせて2,400程度、女子供、百姓らを集めても8000! どうするべきか』

脳裏になぜか声がする。


「これは……、吉田郡山城の戦い、第二次侵攻……?」

そう思った瞬間、目の前が真っ暗になった。

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