小規模なグッドバイ ショートショート集①

淡風

世界の終焉について

 世界では、世界が滅びたというニュースが繰り返し放送されていた。どのチャンネルに回しても同じように、「23日に世界が滅びました」とアナウンサーが淡々と読み上げていた。それは、世界が滅んだあともどこかで誰かが生きているかもしれない、そうしていつものように起き出し、テレビの電源をつけながらトースターに食パンを投げ入れ、歯ブラシを手に取りながら新聞を取りに行き、その日が休刊日であると思い出すと眠気まなこを擦りながら窓の外で鳴くメジロに目をやり、伸びをし、口を濯ぎ、食パンを取り出し、バターを塗り、席について食パンを口に運びつつテレビに顔を向ける。「世界が滅びた」と知り、とたんあんぐりと口を開く。驚きながらも、時間に追われる朝に思考はよく巡らず着替えを済ませて家を出、隣人とすれ違う。「やや、おはようございます」「おはようございます。こんにちもお気をつけて」。近くの公園を横切りつつ、こっそりとキャットフードを滑り台の隅の器に補充し、もうその必要はないのだと思い直す。会社に着くと、愛猫家の同僚が肩を落としている。そばを通り掛かると、同僚は口を開く。「こんなことになるなんてさ。この世界は僕ら人間のためにできているんじゃないんだな」

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