6章 進化

     ̄scene 1_



同じ日。 広縞が、また怨念から幽霊と化した彼女を見た頃。 


「やぁ、良く来た木葉君。 私に、大切な話が在るそうだね」


夜も9時を過ぎた頃に成って。 木葉刑事が、医師でオカルトにも強い、越智水医師の元を訪ねていた。 越智水医師は、今日は初の深夜診察に望む医師が居るので、遅くまで残る事にしていた。


部屋に入った木葉刑事は、直ぐにソファーに座って。


「越智水先生、大変です。 昼、事件の被害者の遺族が、変死体で発見されました」


越智水医師は、デスクの上のファイルを調べる手を、その話と共にピタリと止めた。


「まさか・・・。 それは、“あの事件”絡みかい?」


「それが、はっきりとは云えません。 ですが、死んだ被害者の母親は、アパートで“コドク”の呪いをやってたんですよ」


「え゛っ?」


その呪いの儀式の名前を聞いた越智水医師は、顔を強張らせた。


木葉刑事は前を向いて居ながらに、その目は真剣で、何処か違う所を見ている様で。


「死んだ被害者遺族の母親は、心臓に持病があったらしいので。 恐らく、直接的な死因は、衰弱に因る病死かと思います。 ですが、どうして呪いなんかを命懸けでやっていたのかが、よく解らないんですよっ」


そう語る木葉刑事は、


“明らかに何か別の者が干渉した可能性を感じ。 糸口の見えない難題にぶつかって居る”


と越智水医師は見た。


「ふむ、なるほど…。 それで、君の考える難題は、何かね」


「はい。 先生、確か“コドク”ってのは、爬虫類や毒虫を使う、呪いの呪術ですよね?」


「細かく研究された本の中には、両生類も含んだ小動物や、攻撃的性格の強い昆虫全般とも在るが…。 基本は、間違ってはいないよ」


「捕まえた生き物を密閉した何かに入れて、共食いさせてから。 最後まで生き残った生物を餓えさせ、相手の家の庭に埋めたりして……」


「“呪い”を掛ける」


「はい。 でも、俺には其処が、イマイチ解らないんスよ。 だって、呪いをして埋める相手…。 詰まり犯人が解ってたなら何であの母親は・・、警察に連絡しなかったんですかね? まさか、犯人が誰かも知らないで、“コドク”なんかやったんでしょうか」


そう言った木葉刑事は、越智水医師の返事を期待した。


が。


待てども、彼から何の受け答えもしないので、見上げて横を向くと…。


「………」


初老の医師は、黙ったままに前を見ていた。


「せ・先生? 先生っ、どうしました?」


然し、越智水医師は、見る方向を変えないままに。


「木葉君。 君は・・、呪いと云う行為には、固定のプロセスが在る…。 その事は、知っているよね?」


急に発言するので、木葉刑事も少し考え気味に。


「えぇ・・・、まあ。 例えば、丑の刻参りなら、え~と・・確か。 人形と云う形代(かたしろ)を用意したり。 相手の髪の毛なんかを用意したり・・・、あっ! 時間と場所の用意も」


「うん、そうだ。 大抵、誰かを呪うには、一となりのプロセスが必要なんだよ。 そして、それは良く効く呪術程に、ね」


「はぁ」


「だが・・・。 中には、そうゆう手順を必要としない場合も、在るんだとか」


「え゛っ、本当にですか?」


「うん。 今、フッと・・ね。 君の話を聞いて、思い出した事がある。 これも、祖母が教えてくれたことだ」


と、木葉刑事に向いて、眼の焦点を合わせた越智水医師。


木葉刑事も、見られて黙る。


自分のチェアーから立ち上がる越智水医師は、木葉刑事の前に来てソファーに座ると。


「実は・・、私が小さい頃の話しだ。 周りで、色々な呪い遊びが流行った事があってね。 コックリさんやトイレの何子さんとか、他に色々と…。 処が、その噂を聴いた祖母は、それは心配して、酷く怒っていたよ」


「薬の様ッスね。 効果や後の副作用を知る側と、知らない側みたいですよね」


「うん。 だが・・アレは・・・、そう。 私が中学生の1年生で、確か・・冬の事だ。 丑の刻参りをしている誰かが村に居ると、急に噂が立ち。 その事で疑問が湧いた私は、学校から帰ってから祖母に聞いた事がある」


“呪術に、呪う相手が居るのは当然だけど。 相手が解らない場合は、無理なの?”


「・・・と、ね」


差し入れの存在を思い出した木葉刑事は、自分のバックからペットボトルのお茶を二本出して。 テーブルに二つを置きながら。


「先生って、物静かなフリしてますけど。 意外に、スゲぇ~怖い事を平気で聞きますね。 俺なら、絶対に聞かないや」


「確かに・・ね。 でも、その答えを聞いた私は、恐ろしい事を聞いたと震えたよ・・。 そう、本当に震えた…」


「何ですか? その、恐ろしい事って?」


越智水医師はペットボトルのお茶を手に取り、軽く持ち上げ会釈し礼を述べると。


「その時に祖母は、私に言った……」


“いいかい、これから言った事は、絶対に誰にも言ってはいけないよ。 これは、扱う者に因っては悪い事をする事にもなるからね”


其処まで聞いただけの木葉刑事だが、少し背中を丸めて。


「本当に、怖そうですね」


そんな木葉刑事を見ながら越智水医師が語るのは、こうだった。


越智水医師の祖母は、呪いの疑問を聞いた直後に少し黙り。 程なくして、急激に入道雲が湧き上がって陽射しを遮った暗がりの中、縁側でこう言った。


“本当に、どうしても呪いを成就させたいなら。 必要な事は、たった二つでいいのだよ”


その当時、少年の越智水医師は、


“二つなんて、聞いた事無いよ。 色んな事、しなくちゃいけないんだよね?”


と、言ったのだが。


怖いぐらいに目を細めた祖母は、声のトーンを落として言った。


“いいや。 一つは、心を捨てる事。 人間としての心を捨てて・・・、気が狂うくらいに呪う事だよ”


聞いた木葉刑事は、顔を顰めて横を向き。


(うわぁ~・・・・怖い事を言うねぇ)


と、思う。


然し、だ。 越智水医師は、その当時は好奇心が先行して、更に聞いたと言う。


“もう一つは?”


すると、黒々とした暗雲が空を染める中で。 越智水医師の祖母は、みるみる目を見開き真顔に成って、こう言った。


“もう一つは、死ぬ事だよ”


“えっ? しっ、死ぬって・・自分が?”


“そうさ。 呪って、狂って、発狂して獣の様になって。 食べる事も、生きる事も捨てて、死ぬまで相手を呪い続ける事さ”


・・・。 部屋の中で、越智水医師と木葉刑事が、真剣な目で見合う。


「せ、先生。 それって、まさかっ?」


木葉刑事が想像した事。 それを様子から図り知る越智水医師は、頭を左右に振り。


「いや。 私には、良く解らないよ。 死んだ被害者の遺族が、それを知っていてやったとは、どうしても思えない。 だが、君の話を聞いていて・・・思い出したんだ」


その返答を聞いた木葉刑事の脳裏に、フッと嫌な事が浮ぶ。 思わず前のめりになって、越智水医師へにじり寄る様にし。


「先生、これはそのっ、あの・かっ仮に・・・仮に・・の、話ですよ」


前屈みになり、下から見上げる様に成った木葉刑事を逆に見返す越智水医師は、ただ静かに。


「うん……」


と、聞く体勢を現した。


「先生、もし。 仮に、例の幽霊になったあの女性が。 あの母親を故意に、その・・呪いに誘い込んだって事は、在りませんよね?  悪い言い方なら、あ・その・・・引きずり込んだ・・と云うか」


「ふむ…」


木葉刑事の言った推測を聞いて、深く考えて込んだ越智水医師。


そして、短い思考の後。


「その問いに関して、絶対的な否定は出来ないよ。 今回は、例の事件を起こした犯人は、沢山の被害者を生み出している。 それは詰まり、犯人を呪う相手が沢山居ると云うことだ。 特に、惨い姿の被害者を見た遺族の感情は・・・、実に被害者の彼女の思いに近い。 ひょっとすると、怒りや憎しみが呼び寄せるのかも知れない・・。 同じ思いを持つ、思念の存在で在る怨念から生まれた幽霊を・・・ね」


二人は、お互いでお互いの目を見つめる。 この仮説が、もし正しいなら…。 幽霊に因る被害者は、遺族にまで及ぶ事になる。


「冗談じゃないぞ。 もしかしたら、被害者の遺族までなんてっ」


幽霊をどうすれば良いのか。 物理的に考えて逮捕も無理だし、人間の力の及ぶ所に無い存在だ。


ゆったりとお茶を飲んだ越智水医師は、


「・・とにかく、だ。 今、君の出来る道は、一つしか無い。 犯人を見付ける事、これだけだろうね」


と、呟く様に言った。


すると、更に困り果てる木葉刑事。 手掛かりが無く、捜査が行き詰まっていた。


その時…。


木葉刑事の携帯が鳴る。 上着の内ポケットから取り出した木葉刑事は、


‘古川’


の文字を見て、解剖結果が出たのだと思った。





      ̄scene 2_



そう。 この日は、やはり怨霊の力が急激に増した日だった。


木葉刑事と越智水医師が、2人して話し始めた頃に。 別の場所でも、新たなる異変が起こっていた。


それは都内の別の大学病院にて。 病死見解に些かの異を唱えた古川刑事が立会人になり。 死亡した被害者遺族の母親の遺体が今、司法解剖に臨もうとしていた。


(ふぅ。 コレが終われば、明日は非番だ・・。 家族と、夏休みの話でもしたいね)


刑事としの基本的な定年を数年後に控える古川刑事は、大学病院の一階に在る休憩場にて。 自動販売機で缶コーヒーを買い、それを取り出しながらに思う。 休みの取りにくい仕事なだけに、家族との休日も、しっかり取りたい所だ。 特に、生意気盛りながら高校生の娘が居て、これがまた出来が良い上にとんでもない美少女と来ている。 自分に似ず、母親に似るから可愛くてしょうがない。 妻をも愛する古川刑事にしてみれば、休みの時に事件なんか起きて欲しくも無い。


夜の10時前。 二階から階段で下りて来た解剖助手の男性が古川刑事を見つけて。


「古川さん、そろそろ解剖を行います」


古川刑事は、取り出した缶コーヒーを飲まずに。 脇に抱えるスーツの上着ポケットへと、無造作に押し込んで。


「解った。 行こう」


助手の若い男性と二階に上がり、解剖室手前の準備室に入り。 マスク、キャップ、手袋をつけてから、青い半透明の前掛けも付ける。 これまでも、刑事として付き添って解剖に臨み。 何度も、医師に解せない事を質問しては、事件解決の糸口を見つけて来た古川刑事だ。 この格好に成るのも、実に早かった。


然し………。


いざ、解剖室に入ろうと、助手の若い男性と共にエアシャワーの廊下を歩くうちに。 古川刑事の心に、不可解な胸騒ぎが起こった。


(なんだっ? この背筋に来る悪寒は・・・。 俺の“勘”が、まるで解剖室に入るのを“辞めろ”って言ってるぜっ?)


小太りで禿げた強面だが、これでも古川は、熟練の刑事だ。 今時に“勘”などとは、非科学的だが。 人間とは、やはり動物であり。 また、己を守る自己防衛本能がある。 そして、刑事などと云う危険が付きまとう仕事には、こうゆう野生の勘が時として、現実的に生かされる事がよく在る。


「や、古川さん。 変死体だって?」


エアシャワーを出ると。 解剖室前で、馴染みの医師が笑って言ってくる。


「えぇ、まあ・・。 見た目には、病死のようですがね。 死んだ女性は、例の連続強姦殺人の被害者の遺族なんですわ。 まさか、殺害されたとなれば面倒ですンでね。 医師のお墨付きが欲しいのですよ」


「あの連続した事件の被害者遺族となれば、その気持ちも無下には出来ませんな」


「はい。 ま、しっかりとお願いしますよ。 先生」


「解った」


医師と助手と古川刑事が、押すだけで簡単に開くドアをくぐり抜け、解剖室に入るとき。 もう一人の助手が先立って中に入り。 遺体の衣服を脱がせて、青いシーツを掛けた所だった。


「準備は、いいようだね」


医師が、助手の1人に言う。


古川刑事まで中に入り、解剖室が自動で閉まった。


(何でだ? 何でっ、身体が・・・こんなにも怖がっているんだ?)


古川刑事の身体は、微妙な震えを覚えており。 腕の肌が鳥肌のようになり、背中には何時の間にか冷や汗が伝い始める。 


そして、それは現実に起こった。


古川刑事がフッと、何でか気に成って。 隣の遺体安置所の部屋と、仕切りに成っているドアを見る。 このドアも、鍵の掛かるドアでは無く。 仕切りとしての、云わば押し引き可能なドアで。 二枚の観音開きとなる合わせドアには、下から1メートル50センチ位の高さに隣同士のお互いの部屋を覗ける、丸いガラス窓が付いているのだが。


其方から言い知れぬ強烈な恐怖を感じた古川刑事が、視線の様な何かを察して其処を見た瞬間だ。


「あ゛っ」


思わず、小さく声が出た。


(な゛んてこったっ! で・・出やがったっ!!!!!)


木葉刑事が持っていた、川岸で殺された女性の遺体の顔写真。 それと同じ顔をした人物が、丸い窓の向こうに立っているではないか。


(な・・、何でっ?!!!)


一方、いきなり驚きの声を上げた古川刑事に。 合掌をしてから解剖に取り掛かろうとしていた医師も、助手2人も、何事かと思い。 古川刑事に顔を向けている。


だが。


古川刑事は、あの異様な眼つきに、口の裂けた顔へ変わり果てた女性の遺体姿が。 何故か、自分でも、医師達でも無く。 どうやら、遺体を一点に見つめているのを確認する。


「古川さん、一体どうしましたか?」


この時、解剖を行う担当医師がそう問う。


だが、次に誰より先に声を上げたのは………。


「うわあああああああーーーーーっ!!!!!」


助手の若い男性だった。 驚きの悲鳴を上げて、後ろの機器類に当るまで引き下がったのだ。


「どうしたっ、き……」


“君”と、問うつもりだった医師の声は、途中で途切れてしまう。


何故なら。 古川刑事から視線を動かした医師。 そして、もう一人の助手。 更に、驚いた助手に目を移した古川刑事の視界の中で、何かが動いている。


「ゴ・・・ゴキブリ?」


死体の上に掛かる青いシートの上に、一匹のチャバネゴキブリが蠢いている。


「こらっ、こんな事に驚くなっ。 早く駆除を…」


と、解剖担当の医師が言う中で。


(あ゛っ、動いたっ)


と、古川刑事は目を凝らす。


何と、死んだ母親の上に掛かっている青いシートが、俄にあちこちからモゾモゾと動き出しているではないか。


「う・・・動いてるっ!」


もう一人の助手も、シートが細かく動いている事に脅えて、壁に引いてしまう。


緊急事態を感じた古川刑事は、意を決して。


「先生っ、シートを捲りますよ」


と、遺体に近づく。


「古川さんっ。 いい・一体っ、何が?」


真剣な顔の古川刑事は、顔中を冷や汗塗れにして。


「わかりませんっ!!! ですから、捲くりますっ」


と、シーツの隅を掴んだ。


「わ・・解ったっ」


緊急性を直感した医師が、短く言う。


(一体っ、何がっ?!!)


と、思う古川刑事が、思い切ってシート捲くり飛ばした。


刹那して…。


「うぎゃああああああああああああああああああああっ!!!!!!」


何人かの人の悲鳴が混ざり合って沸騰する湯気の様に沸き上がり、解剖室中に爆発して広がった。


「な・なんだとぉっ!!! こ・これは・・・、こんな事が有っていいのかっ?!!!」


驚き叫ぶ古川刑事は、羽音の響く中で立ち尽くした。


シートを剥がされて見えた母親の遺体は、もはや半分が失われていた。 蠅・蛆・ゴキブリ・蟻・蜂・百足・蛇・蜥蜴・ゲジゲジなど、無数の生き物の群れに集られ、骨まで食い尽くされているではないか……。


そして、たった今。 憎しみの形相のままに、眼も閉じていない母親の顔の鼻や口からニュルリと蛞蝓が湧いて来た。


異常な事態に叫んだ直後。 声が鎮まり静寂が訪れると。 ゴキブリ等が、


“コリコリ・・・、カリカリカリカリ………”


“ヌチャ・・ヌチュヌチャ・・・ヌチュ………”


と、音を立てて肋骨や内臓を齧る音が、この解剖室に響く中。


フッと、幽霊の存在をまた思い出した古川刑事。


(はっ! アレはっ、まだ?)


身震えが治まらないままにガタガタと震える顔をまた、仕切り扉の窓に向けると………。


(いいいっ、居る!)


まだ、怨霊と化した女性の姿は、其処に居た。 そして、母親の遺体が顔まで虫に喰われるのを見届けてから、“ニヤ~”っと変わり果てた顔を歪ませたのだ。


(わっ、笑ってる・・のか?)


何も出来ず、立ち尽くす古川刑事の視界の中で。 怨霊と化した女性の姿は、ユラユラと消えて行った。


「きえ・・・た」


幽霊相手と云うことで、全く何も出来なかった古川刑事は、呆然とただ呟いた。


その後、やっと動けるようになった医師が。 慌て部屋の電話を使って、虫の駆除業者に緊急連絡を入れた。


遺体を持ち込んだ古川刑事も、当然の如く対応に追われる事と成った。





      ̄scene 3_



越智水医師と話合う時に、古川刑事から電話の連絡を取った木葉刑事は、解剖室で起こった出来事について話を聞いた。 “呪い”の話をしていた木葉刑事の元に。 古川刑事からの一報と共に、写真付きの詳細なメールが届いたのは、夜の10時を大きく回った頃である。


電話を受けた後。 急いでメールを見た木葉刑事は、もう驚くばかり。


「せっ、先生っ!!! たたたっ、た・大変ですっ!!」


急に驚く木葉刑事に、越智水医師は返答に困り。


「どうしたんだね? 木葉君、落ち着きなさい」


「そっ、それが落ち着けないですよっ!! あっ、ああああのっ、今日っ死んだっ、被害者の遺族の死体ですよっ!!」


「嗚呼・・・。 さっき、来た時に言ってた話だね?」


此処までは、落ち着いていた越智水医師も。 木葉刑事から詳細を聞いては、顔を蒼褪めさせるしか出来なかった。


「なんてことだ・・。 解剖現場に、怨霊が現れるなんて………」


そこで木葉刑事は、ペットボトルのお茶をグッと呷って。


「でも、これでハッキリしましたよっ。 ちきしょう・・・。 やっぱり、同じ憎しみを持っている遺族を、あの幽霊が巻き込み始めたんですよっ」


こう言った木葉刑事は、また心の中でも。


(やっばりか! やっばり、意味は在ったんだ!! あの亡くなった母親のアパートに、被害者女性の怨念の感じが在った。 あれは、意味が………)


一方の越智水医師は、あまりの事に思考が回らなかった。


(嗚呼っ、祖母が生きてたら・・・。 解決する為の手掛かりが、解るのかもしれないのにっ)


と、思うのだが。


越智水医師の背後にて。 椅子の裏の床にちょこんと座る祖母の霊は、静かに首を左右に動かしていた。


(もはや、為す術はない・・)


と、言わんばかりに…。




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