幕間ーオリビエ=ステファン

幕間ーオリビエ=ステファン

セリ達が自室に戻った後、オリビエは1人執務室に戻ってきていた。


それにしても、メラーノ家、か。


溜息を吐きながら、机に向かう。


また彼女たちのことを思い出すことになるなんて――。


学園で同じクラスだった、ケリー=メラーノ。


私がまだ伯爵家の令嬢だった頃、何かにつけて目をつけてきた。

その頃は、わたくしもまだ気弱なフリなんてしていなかった。


そして、ランコス=メラーノとは家同士の政略である婚約寸前だった。


父が死に、兄が家督を継いだ。

だけどそこからは、没落の一途を辿る。


学園は卒業できたが、ランコスとの婚約はどうするか、最後まで答えは出なかった。


ランコスは、傲慢で、プライドが高いくせに、優柔不断。

だけど、どこで見染めたのか知らないが、私のことを好いているようなだった。

夜会で1度か2度、踊ったくらいしか面識はない。


だからか最後まで、私と婚約したいと言っていたと、今からは思えばそう思う。

勿論、わたくしはランコスには興味ない。

むしろ、印象はかなり悪かった。

それでも家同士の政略結婚は貴族社会の中では当たり前だし、従わなければならないと思っていた。


そんな2人の間に割って入ってきたのが、ケリーだった。

貴族女性としては恥ずかしいことだが、彼女はランコスを寝取ったのだ。


婚約話は勿論消失。

そして公爵家の嫁として、ケリーは嫁いだ。


彼女の勝ち誇ったような笑顔が記憶の中にある。


だけど当時、わたくしは心優しいメチル=ステファンに夢中だった。

美形でもなんでもないけど、あの小動物のような目がたまに翳る時、抱きしめたい衝動に駆られたものだ。


こうして私は、弟共々、ステファン男爵家へ入った。


悔いなんて一切ない。

だけど夜会でケリーに絡まれるのが面倒で、気弱なフリをしている。

没落した伯爵家の影響でというのは、表向きの訳だ。


こうしてまた再び対峙するのは、面倒な上この上ない。

だけど愛する息子のためだ。

逃げ出すわけにはいかない。


それに――。

机の引き出しから1通の手紙を出す。


王家の紋章で封蝋された手紙は、ついにきてしまったかという内容だった。

封蝋の色は、限りなく黒の近い紫。

最重要なことが書かれている証拠だ。


なんというか手際の良さは、さすがのサシャ女王というべきか。


夫から聞かされていたから、覚悟は出来ていた。

だけど実際こうなると、かなり動揺している。


「母の心境って、複雑なのね」

ぼそり呟いたのだった。


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