第11話「城下町のドラゴンたち」

「ほら、賑わってるでしょ?」


「おー! これはすごい活気だな」


 気付けば俺とイリスは城下町の中心部に来ていた。そこには野菜や肉、魚、果物といった食材を売る商人やパンやデザートやらの売買をされて賑わっている。もちろん食べ物だけではなく日用品や装飾品なども売ってる露店が並んでいた。


「賑わってるだけじゃなくて、世界でも高品質なものが揃っているわ」


「へえ」


「いらっしゃい。おーあんたが噂の、邪竜を追い払ってくれた勇者さまかい?」


「え? そうだけど」


 イリスの話を聞きながら八百屋然とした店を構えてるドラゴンベースの姿をしたおばさんドラゴンの前を通ると話し掛けられた。


「ありがとうねえ。勇者さま、これ食べな」


「え? 良いんですか?」


「もちろんだよ。こうやって物を売れるのもあんたのおかげだからね」


「そ、そうですか。ありがとう」


「私はクレル。よろしくね」


 おばさんドラゴンことクレルは俺の顔を見ると嫌な顔をすることなく、逆に笑顔で真っ赤なリンゴを差し出してきてくれる。俺はそれを受け取るとお礼を言った。


「おや、イリスさまじゃないかい。なんだいなんだいレティシア姫を差し置いて勇者さまとデートかい?」


「ち、違うわ! ただこいつを案内してただけよ! ね! 勇者さま!」


「あ、あぁ……」


 クレルがイリスの姿を認めるとからかうように話す。イリスは顔を真っ赤にしながら否定すると俺に同意を求めてきたので俺は押される形を同意してしまう。


「もう行きましょ。まだまだ案内するところはいっぱいあるんだから」


「ちょっと押すなって」


「イリスさま。こんにちは」


 イリスが背中を押して急かしてくる。クレルは、またねと笑っていた。少し歩いていくと頭にバンダナを巻いてピクニックバスケットを持った女性が声を掛けてきた。こちらはクレルと違ってイリス同様人間ベースの、人に近い姿をしていた。


「あら、リース。今日もパンの配達?」


「そうよ。もう終わったけどね」


 時間帯としては昼前、そろそろお腹が空いてくる頃だ。リースと呼ばれたおおよそ二十歳前後に見える女性の持つバスケットからはほのかにバター風味のこうばしい香りが俺のところまで届いた。思わずその匂いに釣られるように俺は腹の音を上げてしまった。


「くす。君、お腹空いてるの?」


「レッド、あなた……」


「えっと……これは──はい」



 イリスには驚かれ、リースには小さく笑われてしまった。俺は誤魔化すこともできずに自分の腹部を擦りながら頷いて言った。


「良かったらこれどうぞ」


「え? 良いんですか?」


「もちろん。余り物だから気にせず食べてくださいね? 勇者さま」


「ありがとうございます。俺が勇者だって、みんなわかるんですね?」


 リースはバスケットからクロワッサンのようなパンを一つ取り出して俺に渡してくれた。クロワッサンはまだ少し温かみがあり、美味しそうだ。


「当然。耳や尻尾のないニンゲンなんて勇者さま以外ありえないもの」


「あ、そうか」


「この世界には勇者以外のニンゲンは存在しないからね。覚えておくといいわ」


「あ、ああ……覚えておく」


 リースやイリスに言われて気付かされる。ニンゲンが存在しない世界。そう聞くとたしかに周りはドラゴンやトカゲの類いの耳や尻尾のある二足歩行のドラゴンか二足歩行の擬人化ドラゴン以外は姿を確認できなかった。この世界──かどうかはわからないが、少なくともこの町にはその二つのタイプのドラゴンがいることは理解できた。


「それじゃあ私はそろそろ行くね。私はリース。リースのパン屋ってパン屋でパンを売ってるの。良かったら勇者さまも遊びに来てね? それじゃ」


「リースのパン屋……はい、寄らせてもらいます。また」


「忙しいのにごめんね? リース、またね」


 リースはそう言い残すと踵を返して去っていった。


「さて、それじゃあちょっと休憩しましょうか。あなたはそこの公園のベンチで待っていて。飲み物買ってくるから」


「あ、それなら俺も行くよ」


「いいからいいから! 勇者さまは休んでて。これはこの前私たちを助けてくれたお礼でもあるんだから」


「そ、そうか? それならお言葉に甘えるけど」


「うんうん、素直でよろしい。それじゃあ待っててすぐ買ってくるわ」


「ああ、悪いな」


 イリスは気にしないでと一言付け加えると飲み物を売ってる露店に歩いていった。俺はイリスを見送ってから公園に向かうことにした。


「公園か。のどかだなぁ」


 公園は広々としていて子供が遊ぶような遊具が設置されていた。ブランコやジャングルジムなんかで遊ぶ子供の姿が見受けられた。公園の中心部には噴水があり、清涼感を演出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る