第5話 変わり者達の集い

「うん、こちらでも確認したよ。それにしても驚いた。一人で成し遂げてしまう【ダークエルフ】がいるとはね。流石はマールさんだ」


「いえいえ、私なんて大したことしてませんて。報告員のお兄さんや受付のお姉さんからの忠告を聞き入れて何とかやってるだけですから」


「それでもマールさんの様な人は見かけてこなかった。姉さんにもそう報告させてもらうよ。きっと驚くぞ」


「あの、お姉さんとは?」


「ああ、伝えてなかったか? 姉さんはギルドの受付に居るんだ。姉弟揃ってギルドで働いてるのは珍しいとよく言われてるよ」


「へぇ。でもどうして珍しいんでしょうか? 自分に合う仕事が偶然一致しただけでしょう?」


「それはあんまり言いたくないな」


 お兄さんは申し訳なさそうにしてから、遠い目をした。


「では聞きません」


「うん。そう言ってもらえれば助かる。ではマールさん、これを姉さんに見せてくれ。そうすれば報酬がもらえるはずだ」


「ありがとうございます。では!」


 なんだか色々とあったんだろうね。

 気になるといえば気になるけど、今の関係を壊してまで聞こうとは思わない。

 それに……言いたくないことの一つや二つくらい誰だってあるもん。

 ウチなんてお父さんと兄貴が極端に人目につくからなぁ。こればかりは本当にどうしようもない。


 街に帰り、受付のお姉さんにクエストの紙を受け渡し、ついでにバッグの中身を納品査定。

 また随分と持ってきたわねと驚きながらも嬉しそうにしているのが目に見えて分かった。


「確かに、確認しました。まずは報酬の1,500G。ご確認ください!」


「ありがとうございます!」


「それと持ち込まれたボアの毛皮が30枚。これは全部品質がいいから前回同様1枚100Gで買い取らせて貰うわね」


「良いんですか?」


「良いの良いの。他のみんなが持ってくるのは変に傷だらけだったり、焼け焦げちゃったりしてるのよ? だからこっちからお願いしたいくらいよ」


「ではありがたく受け取っておきます!」


「そうして頂戴。そしてお肉の方は今回15個持ってきてもらったけど、あと15個ほど持ってきてくれたら色をつけるわよ?」


「ええと、それはどういう事でしょうか?」


「マールさんはこの街にきたばかりだから知らないと思うけど、近いうちにパレードがあるのよ。領主様から直々の依頼で最高品質のボア肉を30個持ってきた人に、特別報酬を出すと言ってくれてるの。今のところ最高品質を提供してくれてるのはマールさんだけ。どう、受けてみない?」


 それは美味しい提案だ。


「ちなみにそれも納品査定額に……」


「もちろん入るわ」


「じゃあ引き受けます!」


「ではこの15個は保留として、あと15個持ってきてくれる?」


「お任せください。ササっと持ってきますね!」


「頼もしいわ」


 と、その前に。

 なんだかお腹が空いている。そう言えばログインしてからご飯食べてなかったや。不思議、ゲームなのにお腹もすくんだ。


「その前に美味しいご飯を振る舞ってくれる場所がどこにあるか教えてくれませんか?」


「ええ、もちろんよ。ギルドを出てすぐ真正面に宿屋さんがあるの。そこでは宿泊の他にも三食提供していて、宿泊客以外も利用できるわ」


「おお!」


「そしてこのギルドを出て同じ通りに美味しい喫茶店があるわ。そこではドリンクの他に軽食もあって軽めの食事をしたい時はそちらでも良いわね」


「なるほど、参考になります」


 受付のお姉さんに手を振って、私はギルド前の宿屋さんへ来ていた。そこでは大きな大人達が昼間からお酒を飲んでいたりと良くない雰囲気。しかしそんな風景に慣れてる私はどこ吹く風でメニューを注文した。


「すいませーん。このミートスパゲティを大盛りで、それとボア肉のガーリック炒めを二人前。それとサラダにデザートの盛り合わせを一つづつお願いします」


 つらつらとメニューを並べていけば、注文を取りに来た恰幅のいいおばちゃんは私を見下ろして、キョトンとする。


「お嬢ちゃん、後からお友達とか来るのかい?」


「いいえ。一人です!」


「この量を一人で……どこに入るんだろうね。まぁ注文を受けたら作るけどね」


「お願いしまーす」


 ニコニコとしながらおばちゃんを見送り、周囲から漂う美味しそうな香りにお腹の音も大合唱を奏でていた。

 少し時間を置いて料理が並べられる。んー美味しそう!

 パンッと掌を合わせて、頂きますと誰にいうでもなく告げた。


 まず最初に手を伸ばしたのはボア肉のガーリック炒めだ。

 自分の卸したお肉かどうかわからないけど、ヌシ様があんなに美味しそうに食べていたのをみて、どんな味なのか気になっていたのだ。

 そして一口、口の中で肉汁と臭み消しのガーリックの激しい闘争が繰り広げられていた。

 うーん、これはご飯が欲しくなる味だ。


 でもその肉汁の旨みを抑えられるものはサラダぐらいしかない。ダメで元々とフォークで絡めとって口に入れると、シャキシャキとした新鮮な葉菜の食感が、口の中の油分を洗い流した。

 ああ、これは当たりだ。通おう。


 なんだったら宿泊しても良いかもしれない。

 でも宿泊するメリットがわかんないんだよね。


 サラダと交互に食べれば、二皿あったボア肉のガーリック炒めは片付いた。

 そして大盛りスパゲティは結構好きな味だったので、これらも飲む様に啜って完食。

 食後のデザートはゼリーの様な、お餅の様な不思議な食感。

 つるんとしていて伸びるのに、サックリと噛み切れる。

 ホロホロとしていて口の中で溶けちゃう。すごい、こんなの食べた事ない!


 満足はなまる二重丸の採点をつけ、会計を済ませる。

 あれだけ食べて1000Gは相当お得だ。

 ギルドの前に構えているだけはある。


 さて、お腹も満たせたしお肉集めに行こうかなーと思ったらギルドの前で呼びかける声があった。

 見れば色んな種族の人間が欲しい人材を求めている。

 どうやら一人でやるのが厳しい人が、協力者を募っているみたいだ。

 よく兄貴が言ってる弔い合戦みたいなものかな?


 生憎と私のスタイルに合う募集は見つからなかった。

 しかしその中でも一つだけあったのは、【募集:戦闘スタイル問わず、ダークエルフであれば誰でも】という募集要項。

 これならば私が手を上げても大丈夫かな?


「あの、お話いいですか?」


「あ、同族の方ですね。どうぞどうぞ」


「では遠慮なく」


 募集していた人はレミアさんと言って身長が高く、切れ長の瞳のかっこいい女性だ。

 きっと私よりも年上だし、なるべく敬語とか使ったほうがいいよね?


 その後レミアさんを皮切りに集まった二人のプレイヤーで自己紹介をする。私以外はゼットンちゃんとキリキリマイくん。

 なかなか個性的なネーミングセンスだ。

 ゼットンちゃんはその威圧的な名前に対して保護欲をそそる愛らしい顔立ち。

 銀髪で褐色肌なのは一緒なのにこの格差たるやなんたる事か。私の微妙具合が際立つ。心許ない。

 そしてキリキリマイくんは神経質そうな理系男子。理系なのに魔法使うそうだよ。大丈夫、理論破綻してない?


「はい。今回集まってもらったのはただ一つ。それは次の街に行く前の先輩からのちょっとしたレクチャーよ。ダークエルフって人気種族に見えて結構ピーキーなスタイルでね、立ち回り次第でお荷物になるか超優秀なアタッカーになるかがかかってるの」


 レミアさんは最初の街から出てないプレイヤーに呼びかけ、慈善事業でダークエルフプレイヤーを導く仕事をしているらしい。

 せっかくだから私も聞いていこうと思った。お腹いっぱい食べた後にすぐ動くとお腹痛くなっちゃうしね!


「まずはパーティを組んでそれぞれの動きを見てみましょう。実はソロでやってる人ほど危なっかしい動きをしてる子が多いのよ」


 レミアさんの言葉に少しムッとしながらも、それはそれで納得できることもあった。

 だって自分以外のダークエルフがどう戦うかみた事ないしね。

 そして一人づつモフラビットに攻撃してみることになった。

 先鋒はゼットンちゃんから。


「我が求むは紅蓮の煉獄! 導き、抉れ! イラプション!」


 ゼットンちゃんは自信満々の顔立ちで杖を高々と掲げると、モフウサギを一匹どころかそこを着弾点として周囲一帯を焼け野原にした。

 その後に高笑いをあげる彼女にレミアさんは手を叩いて注目を集める。


「はい、これが悪い例です。最悪の一言に尽きます。皆さんは絶対に真似しないでくださいね」


「な、なんでぇ?? 一撃必殺の高火力魔法は浪漫じゃないの!?」


「ソロでなら良いですけど、パーティを組んだ時の取り分を分配したときに絶対に揉めます。なんだったら二度とパーティに入れてくれない事だってあるのよ? お姉さんだってこんな事言いたくないわ。でもここから先、魔法プレイヤーが単独で無双できるほど簡単なモンスターやフィールドはないと思って良いわ」


「ぶー」


 ゼットンちゃんは聞きたくないとばかりにその場にしゃがみ込んでぐちぐち言い出した。

 きっと良いとこのお嬢さんが家族に甘やかされて育ったのね。

 そして次にキリキリマイくん。

 彼は眼鏡をクイッとあげると、やれやれと言いたげに前に出た。


「君たち、これが優れた魔導師の戦い方と言うものさ。参考にしたまえ」


 彼は懐から分厚い聖書を取り出すと少し気取ったポーズで詠唱を始める。


「微睡の中に沈み、拘束せよ。スリープ」


 するとモフウサギはお腹いっぱいで眠くなったのか、私達がいるまえだと言うのに眠りこけた。

 そして彼は装備を切り替えて違う色の本を取り出し詠唱する。


「巡れ、巡れ。その血肉を猛毒に侵さん。ポイズン」


 瞬間、モフウサギがもがき苦しむ。

 次第に白い肌を紫色に変え、ピクリとも動かなくなった。

 キリキリマイくんはこんなものさと言いたげに垂れた前髪をふぁさとかきあげる。

 なかなか様になっているのが憎い。

 しかしレミアさんの採点は辛口だった。


「はい失格。さっきはゼットンさんを悪く言いましたが、君もダメだよキリキリマイ君」


「理由を聞こう」


「では聞くが、君は肉や毛皮をドロップさせた事はあるかな?」


「いいや。それとこれにどんな関係があると言うんですか?」


「大有りだ、馬鹿者! そんなんじゃ一生ランクをあげられないぞ! この、ダークエルフの恥さらし者めが!」


 なんだか凄い形相でレミアさんが怒っている。

 どうも毛皮とお肉をドロップさせたいみたいだ。


「最後にマールさん。頼むよ?」


 君だけが頼りだと言いたげに、私に視線を送ってくる。

 私は懐から本を取り出して、モフウサギに挑発を入れた。

 一斉に飛びかかってくるモフウサギの額にジャストカウンターで振り下ろす! モフウサギの生命はたったそれだけで消滅した。ログにはお肉に毛皮、尻尾のドロップまで確認している。


「終わりました」


「うん。ええと……今何やったの?」


「何って、本で戦ったまでですけど?」


「本は剣の様に直接殴る武器じゃありません!」


 その日一番のレミアさんの怒号が、何故か成功を収めた私に降り注いだ。なんでぇ??


 ──────────────────

 プレイヤーネーム:マール

 種族:ダークエルフ

 種族適性:魔法攻撃力+10%、水泳補正+10%


 冒険者ランク:E

 LV:14/20

 依頼達成回数:3回

 称号:『蛮族』

 資金:6820G


 生命:140/140

 魔力:140/140

 

 筋力:100

 耐久:0+[+15]

 知力:3+[+1]

 精神:0+[+11]

 器用:0

 敏捷:0

 幸運:0

 割り振り可能ステータスポイント:26


 武器:初心者の本★[知力、精神+1]

 体上:タランチュラベスト[耐久+15、精神+10]

 体下:初心者のスカート

 頭部:なし

 装飾:なし

 装飾:なし


 ◼️戦闘スタイル【ダークエルフ】

 <物理:素手>苦手:威力20%ダウン

 気合の咆哮

 ジャストカウンター

 飛び蹴り

 正拳突き

 羽交い締め

 超直感

 朧車

 集気法


 <魔法:杖>得意:威力10%アップ

 なし


 <補助:本>

 なし


 <召喚:オーブ>

 グレータースネイク(予約)

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