第380話『マスター、いつものを頼む(涙目』




 第三百八十話『マスター、いつものを頼む(涙目』





 十一月二日、午前一時、深夜の宿場町は落ち着きを取り戻し、時間帯を考えれば恐らく他所よその宿場より活気が有ると思われる。


 深夜だと言うのに旅人の駆け込み入町が止まらない。


 各所でささやかれるこの町の噂、美味ウマそうな話を当てにした者達が、深夜に潜む身の危険をかえりみず強行軍で辿り着いたようだ。


 特に商人の集団が多い。


 この町から得た何かで金儲けをしようと考えるのは間違いじゃない、ダンジョン産のアイテムが現地の貨幣で安く買える、利益を出せない方が難しい。


 つまり金銭的な利益を考えるなら、ここに来る事を決めた商人達の判断は間違いではない、商機にさとく勘も良いし鼻も利く、だが……運は無い。


 気を見るにびんと商人仲間からたたえられているであろうその宿場町へ来た商人達は、老若男女問わず全員が悪魔のとりことなってしまった。


 王都を拠点に商売をしていた大店おおだなの御隠居爺さんは、宿屋の若い悪魔仲居に股間を撫でられ、十数年ぶりのフル勃起をきたして仲居を和姦、中出し後の賢者タイム中に全財産を宿屋に移す事を決める。


 その爺さんの奥さん(78歳)もクソイケメン悪魔の按摩あんまマッサージ指圧師から盗撮企画モノAV並みに破廉恥な性的マッサージを受け、止める努力もむなしく股間を中心に施術されて三十余年ぶりの絶頂を迎え、気が付けばイケメン按摩さん専用の部屋を年間契約で借り上げていた。


 金を持った年寄りはどいつも似たり寄ったり、老いた自分をヨイショしてくれる愛人に心を奪われ、その大事な愛人を囲う為の行動をとりつつ金の力で下も巻き込む、良いお客さんだ。


 これが中年以下になると普通に悪魔の性技に溺れる。

 年齢が下がれば下がるほどその傾向は顕著けんちょだ。


 悪魔は欲望を見抜くからな、本来は隠しておきたい性的嗜好しこうをピンポイントで刺激する上に、悪魔達はその嗜好を蔑んだり否定したりせず受け入れる。


 そして、若さゆえの精力にモノを言わせてその性的嗜好を思い切りぶつけても、悪魔は笑顔を見せてくれる……ただの人間など即堕ちだ。


 こうなれば魅了も心の奥まで食い込んで解除は困難になる。


 魅了くすり漬けが終われば後は簡単、いつもの様に魅了を解除して悪魔の足跡を消し、信者かんじゃさんに『お友達を紹介して?』と頼むだけだ。


 後は勝手に客引きしてくれる。


 無利益、無報酬の呼び込みアルバイト、商人としてあるまじき行為だな、いや、たまに強烈な絶頂おくすりが貰えるから立派な商売だな、うむっ。


 深夜の宿場町は到着したばかりで宿を決めていない旅人と、鼻の穴を膨らませながら金のニオイを嗅ぎつけ獲物を探して徘徊する商人達との間で情報交換や商談が行われ、静かなにぎわ意を見せている。


 ……が、宿をとって悪魔に魅了されればそいつらもじきに落ち着く。


 そんな旅人達の様子を再度地上に建てた高級旅館の最上階から見つめながら、俺は増えまくった『残機』の数に白目をいていた。



 何故『残機』が増えたのか……


 それはイズアルナーギ様がご自分の神界に拉致した神々を次々と滅ぼし、その際に摘出される神核を二歳児直樹に『んっ』と言ってほぼ強制的に食べさせたからです。


 もうお腹いっぱいです、『残機』どころか神格も上がりました、神の位階(神階・神位)で言うところの『一品いっぽん』ですね、最上位です。


 結構な数の神を滅ぼしたイズアルナーギ様ですが、今回は少しばかりご機嫌麗しいとは言えず、ちょっとでもイズアルナーギ様がカチンときたら頭をボンッ的な感じで虐殺していました。



 まぁ結局、クソガキの情報は手に入らなかったが、ガキとは別の情報が手に入った。


 今回イズアルナーギ様に滅ぼされた神は多すぎる。


 助かったのはイズアルナーギ様の存在感にド肝を抜かれて気絶、後に平伏した多数の若い神と、オッパイエやムンジャジと近い立場に在った数柱の上級神だけだ。


 それ以外は綺麗に滅ぼされた。


 滅んだ神々はイズアルナーギ様に対して恐怖と同時に敵意を抱いたらしい、しかも不可触神と知った上で敵意を抱いたようだ、もうアホかと。


 正直言ってそいつら頭がアレだと思う、どこの病院から抜け出して来たのかと問いたい、滅んで当然だな。


 でもまぁ、この虐殺劇が終わる頃には、俺の脳裏に在った『何か引っ掛かるモノ』をおおっていたかすみが晴れた。


 変だと思ったんだよなぁ、俺達との敵対が確実になった後に見せた中央神界の見事な退ざま


 そもそも不可触神の恐ろしさを具体的に知っているってのがおかしかったんだ。


 何千何万年に一柱って存在の不可触神の恐ろしさを、あの迅速な対応が取れるほど正確に把握していたのはさすがに首を傾げたくなる。


 まるで本物を知っている奴の、本物のヤバさを認識した奴らの反応、言うなればママンやイズアルナーギ様を視認している俺達の反応と同じなんだよ。


 そして、現時点で存在が認められる不可触神は、ママンとイズアルナーギ様を除くと異世界の不可触神だけ……


 となれば、答えは出たようなもんだ。


 ママンとイズアルナーギ様に会えない奴らは、いったいどの不可触神を視認してあの存在感に対する恐怖を正確に把握したんだって話になる。


 つまり、中央神界には、中央神界所属の神々には、異世界の不可触神に御拝謁はいえつたまわったゴキブリが少なからず居るって事だ。


 そいつらの手下まで含めれば、この世界さんが創った大宇宙にどれだけのゴキが入り込んでいるのか見当もつかん。


 たははーっ!!



 チッ、失敗した、視野を広く持っているつもりが、惑星アートマンに向けた熱意に比べると、他所の惑星にはまったく関心を持っていなかったと言って良い……



 また俺の凡ミスだ、クソが。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る