第139話「言うほど働いていない……ッ!!」





 第百三十九話『言うほど働いていない……ッ!!』





 俺が浅部で活動を始めた頃に簡易結界は張られていなかった、だが、魔竜眷属を仕留めた頃にはガンダーラをガチガチに結界で固めていた。


 アカギの言うように、俺達に都合良く時期が噛み合ったのだろう。アンデッドの大軍が魔族達の親族で構成されている点も俺の助けになっている。


 以前のガンダーラに展開されている結界は障壁を繋げた簡易結界なので球体の結界ではない、敵は上空と地下から侵入可能だった。


 しかし、その上空から侵入して来た眷属は簡単に仕留めたし、半球体の結界で上空は問題無く、地下には妖蟻族が簡易結界を張りまくってくれている。


 もし、『浅部の大猿が何やらチョコマカと動き回っている』という情報を魔竜が以前から知っていたとしても、『とるに足らない存在が浅部で何かやっている』程度の認識で気にも留めなかっただろう。


 その認識の前提として、『南浅部の大猿如き』という大森林の覇者らしい考えがある。


 しかし、その大猿が自分の眷属を殺した。これはさすがに想像も出来なかったに違いない。大森林の常識からして『覇者の眷属を殺す』などという愚挙・暴挙は有り得ないからだ。


 魔竜は眷属を使って間接的に一部の魔族に影響を与えている。人間相手の争いには関わらないが、大森林の魔族には関わる。


 ハーピーに対する姿勢から見るに、関わったとしても高圧的で一方的なもの、プライドだけは高そうだ。


 それも踏まえて考えると、浅部の大猿如きに眷属を殺された駄竜は、さすがにカチンとくると思われる。


 だが、時すでに遅し。自慢のアンデッド部隊で大猿を懲罰しようと思ったら、ワケの解らない結界が張ってある、調べてみると神気を帯びた結界なのでアンデッドが触れると消滅する。アンデッドは使い物にならない。


 上位の眷属であったと思われる妖狐や妖狸は既に俺達が討った。


 魔竜の手元に残されている駒にあの妖狐並みの強者が居たとしても、カスガの推測通りDP残高が心もとない状況ならば、俺の力が完全に把握出来るまでは下手な博打を打たず、駒の減少に気を配るだろう。


 魔竜が使える駒は、出兵すれば消滅必至のアンデッド軍とハーピーに捕らえさせた人間、そして、大幅な能力低下というダンジョン外ペナルティーを負う養殖や眷属。


 他にも駒が有るかも知れないが、ダンジョン外への派兵に限れば、今の俺達が確認出来た魔竜の駒は全て使い物にならない。


 なるほど、こうやって考えると、俺がここを留守にしても大丈夫だとカスガ達が言うのも頷ける……ような気がせんでもない。


 結界の安心感もある。

 辺境伯が驕るワケだなこれは。


 残る危険因子と言えば、アカギが気にしていた中部と深部の魔族達、しかしこれも魔竜の手紙を受け取った氏族に限られた話だ。初めから手紙を送られなかったドリアード達などはアカギも気にしていない。


 ハッキリとした魔竜の駒数や種族が分かれば、俺の不安も幾分減ると思うんだがなぁ。



『魔竜が所持する駒に関してですが、その総数は不明。ハーピー達から聞いた話や、そのハーピー達の記憶から私が得た情報に魔竜とアンデッドは出て来ません。ダンジョン内に限ればワイバーンも居ませんでした。確認出来たのは獣系眷属と基本召喚体の五種、そしてハーピー達が捕らえた冒険者達と……いえ、以上です』


「フムフム、妥協しつつも住み分けは出来てるって事か。しかし……」



 魔竜、上級竜が格下の相手に姿を晒す事は稀だ、して眷属でもないハーピーに『崇高な自分』を軽々しく見せる事も無いだろう。


 魔竜はダンジョン最奥に居るのでハーピー達が拝む事は出来なかったとして、アンデッドを見なかったという事は、魔竜陣営にアンデッドが居ないと言う事なのか、俺はそうカスガに尋ねる。


 カスガは甘酸っぱい妖蟻酒で喉を潤し、少し眉間にシワを寄せてから俺の質問に答えた。酸っぱい妖蟻酒はお気に召さなかったようだ。ハイ水、これ飲め。



「ん…… 陣営には居る。しかし、魔竜がアンデッドの存在を確認出来る場所や確かな縄張りであるダンジョン内には居ない。竜種は鼻が利く、アンデッドのニオイを遮断できる場所に居るはずだ。無論、魔竜の目に届かぬ場所に限る」


「って事は、ダンジョン内にアンデッド用の空間を造って入れた、とか? 消臭空間的な場所に」


「それも違う。コアがダンジョンにアンデッド用の空間を設けたとは考え難い。コアがマスターの意に反してその縄張り・居城であるダンジョン内にアンデッドを入れるとは思えん。たとえそれが飛び地のサブダンジョンであったとしても、だ」


「じゃぁ、ドコに居るんだ? 消えた遺体は相当な数だ、ヴェーダの監視からそれを隠すのは難しいぞ? ダンジョン内以外は既に蟲を使って大森林全域を調査済みだろ」



 アンデッドの大軍をダンジョン外に置く場合、絶対に大森林の魔族から隠す必要がある。


 コア的には大森林の魔族や侵入して来た人類に魔竜の力を示す為、大森林の各地に駐屯させたいところだろうが、如何せんそのアンデッドは『盗品』の上に魔族達の親族、見つかれば暴動必至。隠すしかない。


 しかし、隠せる場所など無いように思われるのだが……

 とりあえずカスガの話を聞いてみよう。俺には解らん。



『もっと頑張っても……』



 要らん頑張りは、よく働く無能のやる事、だっ。


 ……ヴェーダがトモエに鏡を持って来させてた。


 何故それで俺を映す?

 どう言う意味かな?


 とりあえず鏡に映すのはやめて下さい。

 泣き笑いのアホヅラが映るのでやめて下さい。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る