第137話「……ンッ」
第百三十七話『……ンッ』
笑顔てお前、基本的に顔も体も見せんやんけ……
この秋一番の驚愕を覚えたわ……
『笑っていますよ、今も』
なにそれヤダ……
怖いんだけど……
待て待て、『ニコッ』と『ニチャァ』じゃぁ……お前コレ、ぜんっぜん違うぞ?
『さぁ、お話の続きをどうぞ』
そ、そうですねっ!!
続き続き……
飽くまで私の推測だが、と前置きしてカスガが自分の考えを語った。
「三十年に起きた冒険者の中部突破事件、恐らくこれが不死兵を抱える気になったキッカケだ。あの事件は私もよく覚えている、確かに腕の立つ冒険者パーティーだったようだが……」
カスガ曰く、その冒険者達は中部へ侵入する際、進路として南浅部と北浅部の縦断を選択し、戦闘らしい戦闘も無いまま中部まで辿り着き、更に北東へ進み深部との境界付近で数日暴れ回ってようやく帰路に就いた。
その間、最も被害が大きかったのは東中部だった。驚くべき事だが、南浅部と北浅部の被害はほとんど無かったようだ。
何故その様な結果になったのか?
カスガはアカギの顔を見ながら俺の疑問に笑って答える。
「あの事件で冒険者が無事に往き帰り出来たのは、妖蟻が奴らの存在を無視したから、これが最も大きな要因だ。両段持ちだか何だか知らぬが、妖蟻の大軍を以ってすれば勇者を含まぬ数名の冒険者など物の数ではない。どうかな? 皇帝陛下、クックック」
「そうねぇ~、騎兵の突撃で二秒かしらぁ。まぁ、それはいいとして、あの時は冒険者達が長城の第二城門通過を察知した時点で南浅部侵入は間違い無いと思ったから、南浅部の魔族には浅部の東西へ避難を促したわねぇ。南浅部を突破しそうな勢いだったから、北浅部の魔族にもそれを伝えたかなぁ。中部へは伝えてない」
「あぁ、そりゃまた…… 英断だな」
『ですね、浅部魔族を救ったところは高得点です』
「あら嬉しぃ」
「クック、つまり、浅部防衛の要である妖蟻が真っ先にその役目を放棄したと言う事だ。我ら妖蜂も傍観者であったがな……不義不仁の中部や深部の愚者共を護る壁役など御免だ、義理を貫く殊勝な心構えなど持ち合わせておらんよ」
なるほど、そりゃそうだ。
でも僕的には疑問が残りますぞ?
「ところで、南中部のドリアードや北中部の猪人は? ドリアード達は樹木と同化していたとして、冒険者達が中部に入って進路を北東にとったなら、北都猪人の縄張りもカスッただろ?」
「さぁ、どうだろうな、ドリアード達はお前の言う通りだろう。しかし、猪人の動きは分からん。姉上様は御存じか?」
『当時の猪人も傍観していたようですね。そもそも、冒険者達は北都猪人との遭遇を警戒して進んでいたようです。冒険者ギルドや王国も、冒険者に対して六段以上の両段持ち以外は北都猪人への接触を避けるように忠告しています』
「ほぅ、どちらの話も初耳ですな」
「義理を欠いた豚のクセに生意気ねぇ~」
腐っても鯛ってとこか、北都猪人あなどるべからず、だな。
とりあえず、無関係のジャキが可哀そうになったので、話を逸らしつつ要点を聞いた。
冒険者の中部突破事件は三十年前に起きた事件だが、その十一年前に大森林で起きた王国軍との戦いで、妖蟻と妖蜂、そして浅部の魔族は甚大な被害を被った。
この戦い以降、浅部の魔族は全体的に中部と深部に対し『大森林の仁義』という意味に於いて懐疑的になったようだ。妖蟻と妖蜂は否定的になったと言っていい。
新皇帝となったアカギの意向で妖蟻族が地上の出来事に介入する事が極端に減り、先代女王が分封して専守に回った事により大きく力を落とした妖蜂も、カスガの代からは東浅部の防衛のみに努め、浅部魔族との接触も一部のゴブリン氏族などに限定された。
両族とも中部との繋がりを絶ったという点は同じだ。
この方針は俺が勢力争いの舞台に上がった現在でも続いている。
そう言えば、以前ジャキがガンダーラを訪れた際、妖蜂族のオキク達は彼を見て警戒したが、中部の魔族が浅部に入って来たという事だけが原因ではなかったと言う事だろう。
ジャキを見た浅部魔族は歳を経た者ほど驚くが、理由が分かれば納得出来る。
とにかく、浅部は全体的に、中部は一部のみだが魔竜に非協力的な態度を示したと言う事だろう。
特に妖蟻の地下隠遁と妖蜂の傍観は魔竜にとってダメージがデカい。例えるなら、魔竜の城を囲む深い堀と高い壁が南側と東側だけ取り払われたような状態だ。
正に青天の霹靂。
俺が魔竜だったら、玉座に座りつつ後方へ倒れながら『なんでやねーん』とズッコケる美味しい場面だ。
『しょっちゅうやってますよね?』
好きなんだ、ズッコケ。
特にメチャ関係でコケる。
そんな俺の事は放っておいて下さい。
魔竜としては、両族の反抗的な姿勢を『裏切り』や『造反』と感じたかもしれない。自らが招いた結果なのだが、下級の魔族が大森林の覇者である自分の盾となる事を放棄するなど、誇り高い(笑)上級竜には理解し難い事だったかもしれない。
そもそも、弱者に守ってもらうと言う考えが誇り高い強者とは言えんな!! 傲慢なら似合ってるね。
まぁしかし、魔竜には反抗的な妖蟻と妖蜂を罰する手段が無かった。
自分に従順、または畏怖や恐怖を抱く深部や中部の魔族を浅部へ懲罰部隊として送る事も出来ない。
何故なら、魔竜は魔窟から出られない上に眷属が居らず、恐ろしい竜種が棲む魔窟を訪ねる奇特な魔族など居ないからだ。
要するに、知り合いの魔族も居なければ連絡を取る手段も持っていない。
ハイジクララ山脈に南以外を護られた大森林、唯一山脈の壁が無い南側には大勢の魔族と長城、それらに護られた大森林の最奥に在るダンジョン内で余裕をブッこいていた魔竜は、安寧な百五十年の孤独が幻想だったとようやく気付く。
カスガは、この『妖蟻・妖蜂の傍観』がキッカケとなり竜種以外の眷属を魔竜が抱える事になったのではないかと考える。
そうなると、この時点で魔竜のコアが抱える問題点の二つはクリア出来たとする事が出来る。
つまり、コアは死霊術師候補の確保とアンデッドの量産手段を同時に手に入れる事が出来るようになった。
そして、最後に残った問題、ある意味一番クリア出来そうにない『不浄なるアンデッド』の眷属化、もしくは非眷属部隊として魔竜が自軍に抱えるという事だが、これについてはカスガに語ってもらおう。
『お疲れさまでした』
ふぅ、困難なプロジェクトだったぜ。
好い嫁さんが纏めた概要知識のお蔭だなっ!!
『……ンッ……ふぅ』
『『なんと……』』
『『
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