???「創造主さまは私だけのメインヒロインなようです」
「メインヒロイン登録を創造主にて実行します。創造主のメインヒロイン登録完了。最後に小説タイトルを入力し、物語を再構築してください」
「小説タイトル、ね……前のじゃあだめなの?」
「以前の小説は主人公とメインヒロインが猪狩圭介と有栖川みかんであったため成立した。しかし現在は主人公、メインヒロイン共に変更された。この場合は小説タイトルの流用、再利用は不可能」
「なるほど……自分で決めるしかないわけね」
小説タイトル入力ウィンドウにカーソルを合わせる。
有栖川みかんは今まで小説タイトルを考えたことはなかった。
だから小説タイトルを再利用できたらと思って聞いてみたのだが、どうやら当ては外れたらしい。
「小説……私と創造主さまのだけの物語……小説タイトル」
有栖川みかんの口角が自然と上がった。
主人公とメインヒロインは切っても切れない関係。
主人公がメインヒロインから逃れられないのと同じようにメインヒロインも主人公からは逃れられない。
そういう風に世界は出来ていた。
だから有栖川みかんは小説タイトルを考えながらも上機嫌になっていく。
「そうね、小説タイトルは――」
「創造主さまは私だけのメインヒロインなようです」
有栖川みかんはタイトルを考える。
タイトル付けはある種の法則があることを知っていた。
やがて小説タイトルが思いつくと慣れない手つきでキーボードを叩き、入力していく。
「有栖川みかんの小説タイトル入力確定を確認。登場人物が変更されていません。ランダムで登場人物を配置しますか?」
「お願い。私は創造主さまさえいればいい」
「警告。ランダムで登場人物を選択した場合は以降、マスター権限を行使しない限り登場人物の個別変更ができません。それでも登場人物のランダム選択を使用しますか?」
「問題ないから実行して」
有栖川みかんはまだ知らなかった。
このときの選択が如何に愚かだったか。
面倒くさがらずに登場人物の個別選択さえしていれば悲劇は起きずに済んだことを。
マスター権限が創造主にしか行使できないことを軽視し聞き流したせいで後にひどく後悔することを。
このときの有栖川みかんは夢にも思わなかった。
「登場人物のランダム選択を確認。登場人物をランダム配置。配置完了。いつでも物語の再構築が可能です」
「物語を再構築!」
「物語の再構築実行を確認。物語の再構築、登場人物の更新を実行します。実行完了後、自動で再構築された世界に切り替わります。有栖川みかん? 良き完結を」
「――――っ!?」
突如、パソコンの画面から放たれた焼き切れんばかりの眩い光が有栖川みかんを――世界全体を包んだ。
――――そして舞台は物語が再構築された世界へ。
「ん……んん……あれ、ここは……?」
有栖川みかんは気付けば有栖川家の屋敷、自宅。
自室にいた。
先ほど眩い光を見たせいかどこか現実感はなかった。
「え? 嘘……私、若返ってる……?」
偶然にも有栖川みかんは姿鏡の前に立っていた。
ぺたぺたと自身の顔を触り、頬を左手でつねる。
その姿はウェディングドレス――ではなくブレザー制服。
顔立ちは十代の頃のそれだった。
「……夢じゃあない。さっきまでのことも、今の私も」
有栖川みかんは天井仰ぎ夢想する。
色々なことが思い浮かぶ。
猪狩圭介とのラブストーリー。
完結した後のこと。
自分は小説のキャラクターでしかないこと。
創造主のこと。
様々なことが頭の中で駆け巡った。
「ふふっ、あははは! 私はやった! 成し遂げた!」
有栖川みかんは急に笑い出した。
端から見たら気でも狂ったかと思うだろう。
ふと有栖川みかんは世界が再構築される前に最後送られた言葉を思い出して笑う。
「……完結ぅ? するわけないでしょ、完結なんて――」
有栖川みかんは狂ったように憎悪を内包した声で叫ぶ。
有栖川みかんはこの瞬間から役割がまったく異なるものに変化した。
完結しない者、完結させない者。
有栖川みかん、
「…………私は創造主さまと一緒にこの世界を永遠のものにするんだから……だから何があっても完結なんて絶対させないッ!!」
完結アンチの未完なる少女、有栖川みかん。
彼女と創造主をめぐる物語が始まろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます