???「完結するセカイに私は──」
「みかん……」
「圭介さん……」
結婚式場で有栖川みかんと猪狩圭介は誓いの口づけを前に見つめ合った。
タキシード姿の猪狩圭介は有栖川みかんにはとてもかっこよく眩しく私の旦那さまには勿体ないくらいだと思った。
それでもあの日の公園で出会った有栖川みかんの運命の男性──
「もう絶対離しませんからねっ!」
そう有栖川みかんは猪狩圭介に耳打ちをして誓いの口づけを交わした。
「圭介さん?」
一分ほど経っただろうか。
猪狩圭介は動かなくなった――いや、結婚式場の時間が止まったように誰もが石化したように固まって静かになった。
「もうなんなんですか? ドッキリですか?」
「物語は完結しました。繰り返します。物語は完結しました」
「え? なに? こ、こわい……」
主人公とメインヒロインの誓いの口づけを最後に物語が完結したことで世界は色を失くしモノクロへ変わっていきやがて暗闇に包まれ、結婚式場のモニターが
「物語は完結しました物語は完結しました物語は完結しました物語は完結しました物語は完結しました物語は完結しました物語は完結しました物語は完結し――」
「ひ、ひいっ!?」
有栖川みかんは駆け出した。
結婚式場の外へ外へと必死に駆ける。
「物語は完結しました。登場人物は速やかに完結してください」
「か、完結ってなんなの……怖いよ……誰か助けて……」
「どこに行くの?」
「みんな完結してるよ?」
「みかんも完結しようよ」
有栖川みかんは両耳を両手で塞ぎながら走っていく。
それでも道中、否が応でも聞き覚えのある声が聞こえてくる。
完結した登場人物たちの亡霊の声だ。
亡霊たちは完結しない者を許さない。
「みんな、完結してるのよ?」
「知らない知らない知らない! 完結なんか私知らない!」
「簡単だよ。完結したいって願えば」
「あとは身を委ねるだけ」
完結など知らないと叫ぶ有栖川みかんに亡霊たちは優しく完結のやり方を教える。
しかし有栖川みかんは完結などしたくはなかった。
「嫌だ嫌だ嫌だ! 完結なんてしたくないの!」
「完結したくないなんて、」
「悪い子だね」
「みかんは」
亡霊たちは呆れたような声で言った。
それでも有栖川みかんは完結に
中央噴水公園に辿り着いた辺りだろうか有栖川みかんの携帯にメールの着信が入った。
「め、メール……?」
こんな忙しいときにメール? と怪訝に思う有栖川みかんだったが何か完結から逃れるヒントはないかと携帯をポケットから取り出してメールを開いた。
「時計塔大図書館へ。そこに答えはある」
「時計塔大図書館……?」
メールの文章はわからなかったが有栖川みかんは時計塔大図書館に向けて再び走り出す。
そこに答えがあることを信じて。
「どこに行くの?」
「だめだよそこは」
「物語を終わらせない気?」
亡霊たちは有栖川みかんが時計塔大図書館に向かっていることを察すると焦ったような声で語り掛ける。
「はぁ……はぁ……ここに何があるの?」
有栖川みかんはそんな亡霊たちの声を無視し時計塔大図書館に辿り着く。
息も絶え絶えに中へ入って内側から鍵を掛ける。
このときの有栖川みかんは知らないが時計塔大図書館は中央噴水公園と同じく物語の聖域。
亡霊たちでは入ることが介入することができない数少ない場所だった。
「誰か、いるんですか? きゃっ!」
有栖川みかんは誰かいないかと虚空に話し掛けると勝手に電気がついた。
「勝手に電気が……明るい……」
音一つしない。
誰一人いない。
それでもこのときの有栖川みかんには電気があるだけでも心強かった。
「誰か――」
有栖川みかんは大図書館のフロアに入り、やはり近くに人が誰かいないか問い掛けようとする。
しかし、言い終わる前に本を貸し借りするカウンター前のパソコンの画面がついた。
「ま、またなの……?」
有栖川みかんは大層怯えた。
しかしそこに映ったのは完結強制とは無縁のものだった。
「さて、もう少しで完結だ。どうやって締めるか」
「人の声……?」
恐る恐るとパソコンの近くに寄っていく。
そこに映し出されたのは猪狩圭介や有栖川みかんを始めとした登場人物たちを創造した創造主そのものだった。
「うーん……できればヤンデレヒロインの有栖川みかんを最高の形で終わらせてあげたいんだよな」
「私の名前……? でもヤンデレヒロインって」
有栖川みかんは創造主を初めて目にする。
初めて見たにも関わらずなぜか不思議と安心する。
心が温かく満たされた気分になるのを感じた。
「まあとりあえず書いてみるか」
「誰……なんだろう……」
誰かわからなかった。
それでもいい、ずっとこの人を見ていたい。
そう、有栖川みかんは思った。
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