第94話 異変

 ヴェルナールらがサン・ジュスト城を降伏に追い込んだ頃、アルフォンス公国の隣国であるベルジク王国ではが起きていた。

 その情報は、主がいないアルフォンス公国の家臣達の対応力を試すようなものであった。


 「ベルジク王国からの使者でございます!」


 ヴェルナールから留守居役を命じられたジルベルトの元に、その異常事態を報告する使者が来ていた。

 ベルジクに関しての異変について、ベルジク国内に放っている間諜から先程報告を受けていたジルベルトは用件について大凡の察しがついていた。


 「会いましょう。通してください」


 ジルベルトが謁見の間での目通りを許可するとしばらくして使者が入ってきた。

 ジルベルトは、上座はヴェルナールやレティシアのものであるとして国を預かる身ながらも、上座の椅子に座すことはない。

 

 「目通りを賜り恐悦至極」

 「要件は?」


 間諜からの報告にあったベルジクの異変を重くみたジルベルトは、口上をすっ飛ばして本題に入るよう促した。


 「はい、現在アルフォンス公国の直轄地となっているナミュール州の東隣であるエノー州においてロヴァンジール伯が反乱を起こしました。ナミュール州を直轄されるアルフォンス公国に影響が出ないよう鎮圧を行うつもりではいますが、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます」


 そう言うと使者の男は頭を下げる。


 「相分かりました。用件はこれだけですか?」

 「以上になります」

 「そうですか、わかりました」


 ジルベルトは、ベルジクに起きた異変に対して違和感を抱いていた。

 それは、野心家と名高いベルジク国王ボードゥヴァンが練り上げたものであるのだと。つまりは、反乱に見立てた侵攻であると考えていた。

 それ故に――――手を二度叩いた。

 すると謁見の間の柱の後ろに隠れていた数人によって使者の男は捕らえられた。


 「ど、どういうことですか!?」

 「どうもこうも見ての通りですよ」


 石橋を叩いて渡る男と揶揄されるほどに慎重で堅実なやり方を好む彼らしからぬ大胆な行動だった。

 傍から見れば大胆なだけで、これも彼なりに慎重に考えた結果なのだ。


 「丁重に身柄を拘束しておいてください」


 喚くベルジクの使者を尻目に謁見の間を退室したベルジクは、軍官らと折衝をはかるとクーヴァン城において軍隊の招集を行った。


◆◇◆◇


 「それは一大事だ!急ぎ防衛体制を整えよっ!」


 ジルベルトは、ナミュール州とエノー州の州境に近いところに位置するミーヌ鉱山へと使者を走らせた。


 「それでは私は、公都に戻ります!必ず援兵を送りますゆえ!」

 「この辺りが危なくなる前に帰る方がよい。急がれよ」

 

 鉱山の守備隊は僅かに三百ほど、到底ベルジク軍と矛を交えるには兵が足りない。

 ジルベルトが兵を招集したのは、アルフォンス公国にとって新しい且つ主要な収入源であるこの鉱山を守るためだった。

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