謂われなき理由で領地を没収されそうなので独立してもいいですか?〜天才公爵の興国譚〜

ふぃるめる

激突!グレンヴェーマハ

第1話 独立してもいいですか?

 「お兄様、そろそろタイミングですわ」


 妹のレティシアがそっと耳打ちをした。

 

 「そうだな……行ってくる」

 「頑張ってきてくださいね!」


 今日、俺とレティシアはある目的を持って晩餐会へと参加していた。

 

 「今日ここに私はエルンシュタット王国からの独立を宣言します」


 王太子の成人を祝う晩餐会、そのクライマックスのタイミングで、俺は王の眼前にたち声高らかに言った。


 「この期に及んで如何なるつもりか!?」


 国王が声を荒らげて叫ぶ。


 「如何なるつもりか……面白いことを仰る」


 俺の生家であるアルフォンス公爵家は、エルンシュタットとその西の隣国、ヴァロワ朝との間に跨ぐ形で領地を持っているためにそれを我がものにしようとしたエルンシュタット国王の奸計に陥り近々、全土併合されることになったのだ。

 その奸計の処罰として父親は、つい先日極刑に処されている。

 咎人と扱いとなった家の者がこうして成人式に呼ばれているのは、成人を迎えた王太子による恩赦だった。

 だがそれを恩義に感じるかと言えば否、ありもしない罪を着せられたことは明白なのだ。


 「我が家を不当なる理由で陥れ領地を併合しようとした国王の所業、見過ごせるとでも思ったのですか?」

 「ぐぬっ……やはりお主も生かして置くべきではなかったか」


 どのような計略で我が家を嵌めたのか、この場で俺が言うのを恐れたのか眼前の老獪は辺りに視線を走らすとそれ以上、何も言わなかった。


 「それでは、失礼致します」


 恐らくここから領地に戻ればすぐさま王国との戦争になるだろう。

 だから長居する訳にはいかない。

 わざわざこの場で独立を宣言したのは意地を通すことを王国貴族に知らしめるため、そして何より国王に非があるということを印象づけるためだった。

 その目的を達した今、もうここに用は無かった。


 「皆の衆、逆賊アルフォンスを討て!」


 俺が踵を返すと国王は、叫んだ。

 この会場で戦闘を行うのはある程度予想していたことだった。

 故に丸腰で乗り込んだ訳ではなくしっかりと切り札を用意している。

 王の声に合わせて晩餐会の会場を警護していた近衛兵が一斉に剣を抜く。

 居合わせた貴族達は、悲鳴を上げながら次々と逃げ出していった。

 

 「お覚悟!」


 そのうちの一人が、剣を構え突貫してくる。

 その動線は最短でこちらの命を奪うためのもの、だから見切るのは簡単だ。

 姿勢を低くしすれ違いざまに剣を抜けば手元に届く確かな手応え。

 

 「グヴォッ」


 斬りかかってきた近衛兵の一人が血を吐いて倒れた。


 「同じ目にあいたいやつはいるか?」

 

 剣の腕が立つはずの近衛兵が、何も出来ずに骸と変わったその事実に、ほかの近衛兵達は顔を見合わせるばかり。


 「いないのなら道を開けろ」


 両脇へと近衛兵達が避けていく。

 王を斬り捨てようという考えが脳裏に浮かんだが、王の周りには多くの近衛兵達がその身を守るために集まっていた。


 「お前達、何をしておるのだ!早くその男を殺さぬか!」


 一人声を荒らげる王の命に従う者はいない。

 なぜなら―――――切り札が会場内へ続々と入ってきたからだった。

 漆黒の甲冑に身を包む重騎兵は、大陸西方では言わずと知れたアヴィス騎士団。

 近衛兵たちに対して彼らは槍を構えた。

 近衛兵に比べれば数は少ないが精鋭の騎兵に、近衛兵たちは萎縮していた。


 「次は戦場で相見えましょう」


 そう言い残して会場の外に出ると馬車から降りたレティシアが駆け寄ってきた。

 

 「お兄様、首尾はいかがでしょうか?」

 「上々だ。帰ったら戦争になるかもしれんが姉上も来てくれているし、負ける道理はない」

 「それは何よりです。私達の父を奪った王国への復讐の始まりですのね」


 満面の笑みを浮かべたレティシアを用意していた馬車に乗せると護衛のアヴィス騎士団と共に、夜の街道を西へと駆け出した。

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