第19話 甘くみられたものですね
「そ、そんな……そんな……この私が…………」
膝から崩れ落ちた公爵様は、床にぺたりと座られますと、震えた声で呟かれておりました。
どうしてご自身が無事で済むと思えていたか、私には理解出来ないことです。
伯父の気性の荒さは、この国にも知れ渡っていることでしょうに。
ここで姪として、伯父の名誉のために言っておきますと。
普段の伯父様はとても優しい方ですし、気性も穏やかなのですよ。
国政に携わっている間も、何も問題が起きない限りは穏やかに働いているそうです。
そういう部分で、母とよく似た方であるとも言えるでしょう。
さすがは兄妹ということでしょうか。
「さ、先に今一度見直すと……確か殿下はそのように仰って……」
思い出したように顔を上げた公爵様は、自信のなさそうな声で議長様へと問われました。
先からずっと令息様については何も仰いませんが、それが公爵様の本性を表しているようで、なんだかあの元婚約者である令息様が不憫に想えてきます。
「無為な夢など見るな。先のあれは、お前たちの減軽を考えての発言ではない。この場にギルバリー侯爵殿とご令嬢殿がいらっしゃるからには、ご意見を直々に窺ってから、王家としての最終的な決定を下すべきだと判断したまでのこと」
公爵様がはっと驚いた顔を見せたあとに、座り込んだまま会場を見渡しました。
すぐにある一点で公爵様の視線が止まります。
今の今まで、父が共に来ていることを公爵様は気付いておられなかったようです。
確かにこの議会への呼び出し状には、聞きたいことがあるから私一人が参加するようにと書いてありました。
けれども侯爵位を持つ父には、呼び出し状に関係なく、貴族として議会への参加資格があるのです。
いつも父は忙しく、議会に出て来なかったので、今回も出ないと思っていたのでしょうか?
娘一人を参加させる心ない父ではありませんが、公爵様ご自身のお考えを元にそのように判断されたのだと思います。
私は両親に恵まれているのですね。
悲しいことに、父を見て驚いたあとの公爵様の表情を見ていたら、公爵様がどのようなお考えで私をこの場に呼び出したのか、それが手に取るように分かってしまいました。
あれは王女殿下の命でしたが、あの園遊会の場に招待されていたのは若い貴族だけ。
すべてをうやむやにして、そして元々は私が悪かったことにして、婚約は継続。
処刑がどうとか物騒な野次が飛んでいたのも、私を怖がらせて、公爵様のお考えに頷かせるためだったのでしょう。
小娘一人ならばなんとかなる。
そのような浅い考えが公爵様の失敗したと語る悔しそうな表情に見え透いておりました。
園遊会からすでに相当の日数が過ぎています。
人の口には戸が立てられません。
若い貴族しかその場にはいなかったとしても、その若い貴族の皆様は家に戻って誰に何を語っていたでしょうか。
公爵様のお考えで対策を取る気であれば、あの園遊会の場でことを収めなければなりませんでした。
公爵様は私の母を、そして伯父を甘く見過ぎです。
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