【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実

第1話 どうして私が詰問される側なのでしょう?


「ギルバリー侯爵令嬢!何故、何もしなかった!」



 私の名はギルバリー侯爵家の長女、ローゼマリー。


 はじめて議会に呼び出されまして、ただいま絶賛『何もしなかったこと』を責められているところにございます。

 けれども聞かれた言葉の意味が何一つ分かりませんで、返答には困ってしまいますわね。


 だから言いました。


「何故と申されましても」


 証言台と言うように、席となる椅子はありません。

 机がひとつあって、その前にずっと立っている形ですので、足も疲れてきました。


 もう帰りたい……。

 いいえ、母たちを早く追い掛けたいのですが。


 淑女として、皆様の前で姿勢を崩すわけにもいきません。



 身体の疲れを誤魔化そうと、視線だけを泳がせてみれば。

 私をぐるりと囲むようにして並ぶ階段上の座席に座る皆様は、私に向けて一様に厳しい視線を送ってきます。


 何故、私にその視線を向けるのか。

 これについても、私には理解出来ないことです。


 向けるべきは、私の前方で先から喚いてる殿方の方ではないかしら?


 彼はバウゼン公爵家のご当主様です。

 その公爵様は答えられぬ私に向けて、なお声を張り上げて言いました。


「婚約相手を正すことも婚約者の義務ではないか。聞くところによれば、貴様は長らく婚約者の不貞を知っていたそうだな。何故放置した!」


 貴様……と言いました?


 それから、何故と申されましてもね。


 それ以前に、誰から聞いた話だと言うのでしょうか?

 私がそれを知っていると話したのは誰なのです?


 追求しても良いものかしらね。

 ちらと議長席に視線を送りましたら……あら、目が合い微笑まれたような?


 いいえ、真顔ですわね。

 気のせいだったかしら。



 議長様のお考えは分からず、もう一度憤る公爵様を見てみます。

 ふくよかな顔を真っ赤にされて、鼻息荒く、言ってやったぞという達成感に浸っているようですが。


 この方は誰の話だと思い、先の発言をしたのでしょうか?

 

 私からも同じ質問をさせていただきたいところです。

 これは許されるのかしら?


 もう一度議長席に視線を送ったときでした。



「早く答えぬか!答えぬのであれば、答えられぬことこそが答えだと受け取るぞ!」


 足りぬ頭かと思っていたら、急に神官がされる問答のようなことを言いますのね。


 仕方なく、私はまず答えを優先させることにいたします。


 ひとまず、そうしただけですけれど。


「何もしなかったことに明確な理由が必要なのでしょうか。たとえば昨日出掛けなかったことに対し理由をお尋ねしましたら、公爵様は必ず明確な理由をご準備出来るということでございましょうか」


「何を小癪な。屁理屈はいいから、何もしなかった理由を述べよ!」


 屁理屈ですかねぇ。

 気分が乗らなかったから……とは言えませんものね。


「では、自分の信念に従ったということを答えといたしましょう。婚約者と言っても他家の御方ですし、私は元より他家であろうとなかろうと、他者のすることに口を挟む信念は持ち得ておりませんので」


 私がはっきりと自分の意見を伝えますと、議会の場が急に騒めていきました。




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