首謀者ですけどなにか? ②

「「この学校は……我々が乗っ取った」」


校内放送用のスピーカーから響いた謎の男の声。


俺と佐原さんは、互いに困惑の表情を見せた。

「ああ?何だコイツ…?」

「残党諸君……って今言ったよね、私たちのことかしら」


「「ふぅー…一回言ってみたかったんだよ、こういうセリフ。ンフフフ」」


 のんきな独り言まで、スピーカーにのせて漏れ聞こえてくる。

 この声の主が、学校中を“廃人”まみれにした張本人なのか?にしては、あまりに言っていることが、男性にしてはキーの高い声も相まって、なにか緊張感に欠けるなぁ…と拍子抜けしている横で、


「……この声、もしかして」

 佐原さんはハッと何かに気づいた顔をした。


「え、もしかして心当たりある感じ?こいつが誰か……」

 そう尋ねる俺の声をさえぎるように、校内放送のうさん臭い男の声が続く。


「「いやはや、手荒な前置き失礼。そして御機嫌よう。私がこの事件の首謀者だ」」


「首謀者……」

 あっさりと自らの素性を明かしてきた。まあこの状況を考えれば首謀者以外であったほうが逆に驚き、ともいえるが。校内放送まで自由にできるってことは、もう完全にこの学校は、名前も顔も知らないコイツの手中におさめられちまったってことか。


「「えー……只今10時7分…本当ならこの時間には一人残らず全滅させる予定だったんだが……どうやら中々しぶといのが1人2人いるようなんでね、こうしてマイク越しにご挨拶させてもらってるというわけさ。ンフフンフ」」


 独特な笑い方をするやつだ。だが、話し方やトーンからして、そこまで年を重ねているようには聞こえない。もしかして俺らと同じ高校生くらいじゃないだろうか。


「佐原さんさっき、なんかピンときたような顔してたけど、この声に心当たりあるの?」

 ともう一度聞くと、佐原さんはなぜかスマホをいじっていた。

「え、何してんの?」

「……たぶん間違いない。ちょっと黙ってて」

 そういって佐原さんは、スマホを自分の耳に当て、人差し指を口元にやり、シーっと俺に目線を配る。

「今から、電話かけるから」

「電話?……誰に?」


 そう聞くと、佐原さんはビッと、スピーカーの声が聞こえてくる廊下の方をビッと指さした。


「この“自称・首謀者”に決まってんでしょ」

「え……やっぱり誰か分かったってことか?」

「あんなキモ笑い声、1人しかいないっつーの」


“キモ笑い声”と罵られていることなど知る由もない声の主は、相変わらず芝居がかった口調で、校内放送を続けていた。


「「ちょこまかと逃げ回っている諸君が今どこにいるか知らんが……友人がそろって生気を失い、水鉄砲を襲った男達に狙われ、さぞ途方に暮れていることだろう。そして疑問に思っている、誰が、なぜこんな…((プルルプルル))…ことに…((プルルプルル))」


「あ……!」

 スピーカーの向こうから、電話がなる音がかすかに聞こえてきた。今まさに横で佐原さんがかけている電話が、放送室にいる男にかかっている証拠だった。

 男の声が止まり、スピーカーの奥からコール音のみが響く時間が数秒続いた後、電話に応じる声が流れてきた。


「「ンフフフ……久しぶりだな佐原春乃」」


 やはり電話をかけた相手は、この“キモ笑い声”の男だった。佐原さんは黙ったまま、スマホを耳に当てている。


「「竹刀を片手に一人逃げ回ってる女がいると、俺の部下から報告があったが……やはりお前だったか」」


 電話越しに佐原さんに話しかけている放送室の男の声は、そのまま自動的にスピーカーに乗り、廊下から大音量で聞こえてくる。


 佐原さんはため息をつき、答えた。

「こっちのセリフよ……やっぱりあんただったのね、西田くん」


「西田……って誰だっけ?」

 佐原さんが口にした名前は、どっかで聞いたことのあるような気がするが、思いだせない。もともと人の顔や名前を覚えるのはあまり得意な方ではい。なんだか自分だけ置いてけぼりで会話が進みそうでもあったので、春乃に尋ねた、が。


「「この声はもしや…早見跳彦くんかい?」」


 反応したのは、電話越しの“西田”という男だった。

「うお……聞こえてんのかよ!」

 佐原さんの通話中のスマホが、横にいた俺の声も拾っていた。予想外の反応にビクつく俺をよそに、西田はンフンフと笑い出した。

「「そうか成程……もう一人逃げ回る“男”がいるとも聞いていたが……君だったか…ンフンフ!面白い…実に面白い2人が生き残ってくれた……」」


「いや、君だったか……って別に俺はお前のことまったくピンときてねぇんだが……ていうか、佐原さんはなんでコイツと知り合いなんだよ?どういう繋がり?」


 そう尋ねると、一瞬、佐原さんの表情が濁った、気がした。ん?なんか、聞いちゃよくなかったんだろうか。気まずい空気が流れた後、佐原さんが苦々しそうに、でもどこか気恥ずかしそうに、言った。


「……別に………ただの元カレよ」


「………………………はい??」

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