ユーチューバーと幽霊




なぜ、幽霊が怖いのだろうか?

例えば、人が多勢いる場所で幽霊を目撃した場合でも怖いと感じるのだろうか?

逆に、人が誰も通らない人里離れた場所で見知らぬ人と遭遇すれば、それが人間でも怖いだろう。

つまり幽霊とは、存在そのものが怖いのではなく、怖いと思った時点で怖いのではないか。

そう考えると、幽霊自体の怖さが無くなる。たとえ遭遇しても、何もされなければ恐怖などないだろう。

何かされるのなら、そりゃあ怖いが、それならば、犬や猫でも何かされれば怖いのと同じだ。


ホラー系 YouTuber として全国の心霊スポットを巡り旅をしている俺の名前は根津健一ねずけんいち

『ネズケンのホラーチャンネル』という登録者数1万人を超えるYouTubeをやっている。

今年に入り、ようやく収益を得られるようになり、これからはもっと稼ぎを増やすために登録者を増やしたいと考えている昨今である。

しかし、俺には一つの悩みというか、心の中で引っかかっている事がある。それは、今まで幽霊になど出会ったことはなく、俺は幽霊を信じていないということだ。

だから、こういう事ができるということもあるけど、視聴者から演者が何も怖がらずに、淡々と心霊スポットを巡る様を見ているのはつまらないというコメントがチラホラある。

そういうコメントを読むようになってからは、わざと驚いた声を出したり、ビビって動けなくなり躊躇したりするようにした。すると、明らかに視聴回数が伸びるだ。

以来、俺は大げさに驚き、かつ、仕掛けを用意して、ついにはエキストラを雇ってウソの幽霊の出演をさせるようになったしまった。

だが、それら手法は視聴者にバレ始めてきた。何しろ、毎回、それらしい影が映るなんてあり得ないからだ。

そう考えると心霊スポット巡りというのは難しい。幽霊を出さずに、如何に怖い画を撮れるか、だからだ。


全国の有名心霊スポットをほぼ周りきった頃、俺は日本で最恐の心霊スポットがあるという話を視聴者から聞いた。

映画にもなった〇〇トンネルよりなど比ではないほどの恐ろしい場所と言われ、俺は早速、その心霊スポットに向かった。

行った者が、あまりにも不慮の死を遂げるということで、自然と口を出すのも憚られるようになったその廃病院は山形県の山の中にあるという。

延々と続く林道を、幾つもの山を越えた本当に山の奥にあり、なんで、こんなところにわざわざ病院なんて建てたのか?という場所に建っていた。

最後、坂を上り切り、カーブを曲がった先に、バイクのヘッドライトが白い建物を浮かび上がらせた。

梅雨に入る前の月も出ていないジメっとした六月の夜、俺は、その廃病院の前に立っていた。

今回はガチで行こうと思い、エキストラを雇うのを止め、一人であった。

バイクをゆっくりと走らせながら、細い一本道を病院に向かっていくと、初夏ということもあり、木々が青々と茂っていて、病院までの道のりを妨げていた。

俺は、その中を突っ込んでいって、かつて駐車場だった場所にバイクを止めた。

充電を満タンにした懐中電灯とアクションカメラ、デジカメ、充電器をあらゆることを想定して二個準備をして、いざ病院の表玄関へと向かう。

次の瞬間、今までに感じたことのない悪寒が自分の内外にフツフツと沸いてくるの感じた。

明らかにおかしな感覚、まるで誰かが後ろにいたようなそんな気がした。だが、振り返るが誰もいない。

気を取り直して進んでいくと、今度は誰かの話声のようなものが聞こえる。また立ち止まって耳を澄ましてみるが、何処からか話し声はやまない。

さすがは最恐の心霊スポットだけある。今までと雰囲気がまるで違っていた。俺は全身に泡立つような鳥肌を立てながら、病院の入口に立って撮影を開始した。

「えー、ネズケンです。今夜はですね、日本で最恐と言われる心霊スポット、山形県の岩静の廃病院へとやってきました。ここは、知る人ぞ知る最恐心霊スポットで、訪れた人間がかなりの数、その後に死亡していると言われています。と言うことは、もしかして、ネズケンも今夜で皆さんとお別れになってしまうのでしょうかね?……それでは、入って見ましょう」

一歩足を踏み入れると何が違う。

何が違うのか、具体的には説明できない。しかし、体に刺さるような空気、圧迫するような雰囲気。それら全てが威圧感を与えていた。

一瞬、心の中に、「引き返そうか?」という考えが浮かんだ。

その考えが浮かんだことが逆に自分で驚く。まさかそんなふうに思うなんて、怖いと思う気持ちが芽生え始めたと言うことか。

最恐のホラーチャンネルにしたいという思いから、気持ちを打ち消し、急いで中に入っていく。

「廃病院には何度も入ったことがありますが、ずいぶんと綺麗な廃病院ですねぇ。大体、どこかの悪ガキたちがやってきて、面白半分に肝試しをやった痕があり、物が散乱していて、落書きが至る所にあるのが定番なんですが……」

この病院にはそれらの痕跡は一切なく、むしろ綺麗な状態で保存されていた。そこになんとなく違和感を覚える。

「なぜ、こんな綺麗な状態が続くんだろう? そんなことはあり得る?まるで誰かが掃除したような清潔な病院……ワックスをかけたようにキュッって、足音が鳴るなんてあり得なくない?」

俺は一階を歩き、だんだんと進んでいくが何もない。ガラスも割られていないし、何時でも開業できるのではと思わせるくらいだ。

「これ、もしかして、ガセなのかな?」

何となくそんな気がしてきた。最恐の心霊スポットなどと言って、単なる山奥の病院跡地なんじゃないか?

そう思うと、なんとなく拍子抜けしてきたが、それでもやめるわけにはいかない。一通り回ってみて、判断しようと2階へと上がっていく。

2階には病室となっており、ベッドが並べられていた。

「ここも綺麗だ」

ベッドはシーツや布団はないが、骨組みのままで置かれてあり、それもまた何時でも使えそうなくらい整然と並んでいた。

さらに先へ進んでいくとそこにはナースセンターがあった。そこにライトを照らすと、一人の女が座っていた。

「わっ……」

思わず小さく叫んだ。

いきなりの登場であった。幽霊を見たのは初めてであった。だいたい幽霊など信じていないのだが、そこには紛れもなく幽霊がいた。

あまりにも当たり前に座っているので人間のようにも見えるが、もちろん人間ではない。看護師の幽霊だ。

「……あ、どうも」

俺は思わず女に向かって声をかけた。すると、女が会釈を返す。まるで怖くない。これもまたイメージしていたのと違う。

「勝手に入ってきちゃったけど、よかったですかね?」

会話を続ける。

女は何も言わず無言で私を見つめた。顔が青白く暗闇に浮かんでいて年齢はよくわからないが、切れ長の目をしたなかなかの美人であった。

「ここら辺をちょっと見てもらってもいいですか?」

女はうなずく。

「じゃあ、すいませんけど見させてもらいます」

とナースセンターの前を通って、奥の方へと進んで行く。すると、何やら壁の当たり 叩くような音が 聞こえてきた。

その音が天井へと伝わっていき、そして反対側へと移動していく。そして、俺を追い越し、前の方に駆け足の足音が通り過ぎていく。

それが始まりの合図だと思った。

案の定、一瞬にして、空気が変わったことに気付いた。振り返り、ナースステーションを見ると 女の幽霊の顔が暗闇の中で浮かび上がっているのが見える。

そして、こちらの方を見つめているのがはっきりとわかる。

俺はどうしようかと迷った。

このまま引き返えそうか?それとも先へ進もうか? どちらでもできそうな気がするが、しかし、このまま帰ってしまうのではあまりにも YouTuber としての気概がなさすぎる。

「いやー、びっくりしましたね。幽霊が本当に映ってしまうなんて、まさか信じられないよ、本当に。これって、本当に撮れるのかな?映像では写ってるんですけど、これが本当に映っていたら、前代未聞ってやつじゃない?」

俺は立ち止まり、もう一度、女の方に見た。

確かにまだいる。

「……ちょっと話しかけてみましょうか?」

何を思ったのか、俺は引き返し、カメラを向けたまま、女に向かって話しかけた。

「あの、ちょっとよろしいですか?」

女は黙って俺の方を見つめた。

「話を聞かせてもらってもいいですか?」

Yes も No も言わない。しかし、続ける。

「ここで何をしているんですか?」

まさか、「お前を待っていたんだよ」などと言うはずもなく、女は黙って俺を見つめていた。

じっと、その見つめるその目を見ていた俺は、急にその女のそこはかとない闇の深さに気づいた。

俺はそのまま走り出し、階段を駆け下り、病院の廊下を走り、駐車場のバイクに飛び乗り、一目散に逃げだした。

「ヤバい、これは、ガチだ。来ちゃダメなところだ」




  *        *        *        *




それから動画をアップしたが、それはとても不評であった。

何しろ動画は人によってとらえ方が違うのだ。ある人間はその動画には何も写っていないと言い、またある人間は俺のことおかしいと言った。

また他の人間は男の幽霊が映っていたなどとコメントに書いてあった。

俺はそれ以来、心霊スポットへは行けなくなって、youtuberを廃業した。

そんなある日、霊能者が俺のところを訪ねてきて俺に向かってこう言った。

「あなたはとても運がいい。あそこで逃げなかったらあなた返って来れなかったわよ」

俺は鼻で笑って聞いていた。

すると霊能者はさらにこう言った。

「あなた、気づいたのよね?あそこで、あの女の幽霊に初めて出会ったんじゃなくて、ずうっとあなたに憑いていたってことを。あそこで、あなたを待っていたのよ」


                                     🈡

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