大規模調査
第74話 久しぶりの生活
夕食が終わった後、リリアさんにもアルビオ殿下が言っていた事を話した。
「じゃあ、また調査で外に出るんだね」
「はい。私も参加する事になると殿下がおっしゃっていましたから」
「そうなんだ。頑張らなきゃだけど、無理しちゃダメだよ? この前みたいにならないようにね」
「はい。他の方々もいますし、もう何人も攻略した事がある場所ですし、この前みたいな事は起こらないと思います」
私が鼻息荒くそう言うと、リリアさんは優しく微笑んで私の頭を撫でた。
「?」
撫でられた意味が分からないので、首を傾げる。リリアさんは何も答えず、ぎゅっと抱きしめてくれる。
(どうしたんだろう? まぁ、嬉しいから良いんだけど)
そんな事を思っていると、リリアさんが少し身体を離した。
「明日からは、普通に仕事だよね?」
「はい。休みは今日までなので」
「じゃあ、早めに寝ないとだね」
「そうですね」
そんな話をしていると、お風呂からキティさんが出て来た。
「ん。お風呂出た」
「分かりました。じゃあ、私も入ってきちゃいますね」
「私も一緒に入るよ」
「そう……ですか? じゃあ、一緒に行きましょう」
「私はもう寝る」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみ」
「ん。おやすみ」
キティさんと別れて、私とリリアさんはお風呂に向かった。身体を洗った後、二人で湯船に浸かる。湯船の中でもリリアさんは、私を後ろから抱きしめてくれた。さすがに、どうしたのか気になるので、素直に訊くことにした。
「リリアさん、どうしたんですか?」
「ん? どうしたって?」
「何だか、いつもと違います。優しいのはそうなんですが、スキンシップが激しい感じがします」
「アイリスちゃんが成長したのが嬉しくてね。前だったら、もう少し思い詰めていた感じがするし、あんなに胸張って宣言なんて出来なかったと思ってね。出会って、まだ二ヶ月近くだけど、成長してるって感じるよ」
短い付き合いで、そんな成長したって思われるってある意味すごい事なのかな。でも、短期間で変われたんだとしたら、その要因は……
「リリアさんのおかげですよ。正直、戦うのは今でも好きではないですし、出来る事なら、平和に暮らしたいと思います」
「……」
リリアさんの抱きしめる力が少しだけ強くなる。私の前に回されているリリアさんの腕に、私の手を重ねる。
「でも、リリアさん達を守るために、力を振うのは嫌じゃないって思うんです」
「それは、無理をしていい理由にはならないからね」
「分かってます。自分の身も考えつつ、皆を守ります。リリアさんとの約束ですから!」
「うん。ちゃんと帰ってきてね」
「はい!」
私達はお風呂から出た後に、髪をしっかりと乾かしてベッドの中に入っていった。そして、いつも通りリリアさんに抱きついて眠った。最近、リリアさんやキティさんに抱きついて眠る事に抵抗を覚えなくなった。安心するから、自分から抱きついて眠ってしまう。二人とも受け入れてくれるから甘えてしまうっていうのもあるんだけど。
────────────────────────
翌日、私とリリアさんは、いつも通りの仕事をするためにギルドに来ていた。ギルドに入ったら、カルメアさんと遭遇した。
「来たわね。アイリスは受付、リリアは裏で地図製作の方をお願いね」
「「分かりました」」
私とリリアさんはそれぞれの業務に移る。受付の業務をしていると、沢山の冒険者さんから労われた。皆、私と領軍の模擬戦があった事を知っているみたい。まぁ、アルビオ殿下もいらっしゃったから、その関係でも知られているんだと思うけど。
労ってくれる冒険者さん達にお礼を言いつつ、業務をこなしていると、サリアが受付にやってきた。
「久しぶり、アイリス」
「サリア、久しぶり。鉄級になってしばらく経っているけど、どんな感じ?」
「色々と依頼をこなしているよ。最近は、魔物討伐系の依頼を受けているところ。後は、採取系だね」
「採取? 何か、お金になりそうなやつあったっけ?」
採取系は、討伐系よりも報酬が低めになっている。危険度の差によるものもあるけど、依頼主の違いもある。
「薬草だよ。病院で足りなくなると困るでしょ?」
「ああ、ここ最近、薬草採取の依頼を沢山こなしていたのは、サリアだったんだ?」
「そうだよ。アイリスが入院した時にアンジュさんに訊いたんだけど、病院の薬草不足がやばいみたいだから。アイリスの治療が進まなくなったら、嫌だったから頑張ったんだよ」
「じゃあ、私のためだったんだ」
サリアが採取依頼を受けていた理由が、私を想っての事と聞いて自然と頬が緩んでしまう。
「もう、良いでしょ? それより受注お願い出来る?」
「は~い」
ササッと受注処理を済ませていく。
「そういえば、大規模の調査をするんだってね。掲示板に張り出されていたよ。職員と冒険者も動員するって」
「うん。アルビオ殿下が主導する調査だよ。私も参加する事になるんだ」
「まぁ、アルビオ殿下がいらっしゃるなら、アイリスに声を掛けるよね。結構気に入られていたし」
「まぁね。はい。これで、受注完了だよ」
「ありがとう。あれから、悪夢の方は?」
サリアは、カウンターから離れる直前に心配そうにそう訊いた。
「大丈夫とは言い難いけどね。リリアさんやキティさんのおかげで、膠着状態にはなっているよ」
「本当に大丈夫とは言い難いね。何か出来る事があったら言ってね。お母さんも心配していたから。リリアさん達が来る前は、一緒に住んだ方が良いんじゃないかとか言ってあわあわしてたし」
「ああ……おばさんには大丈夫って伝えといて」
「うん、分かった。じゃあ、また今度ね」
「うん。いってらっしゃい」
サリアに手を振って送り出す。サリアにも、ずっと心配掛けてしまっている事を改めて実感した。幼馴染みだから、余計に心配をしてくれるんだと思う。お母さん達が亡くなった時も、サリアとおばさん達は色々と支えてくれたしね。
そんなこんなで今日の業務を次々にこなしていった。久しぶりの受付業務だったからか、少しだけ楽しくなった。多分だけど、死闘をしなくていいからかな。正直、これからも死闘はしたくないけど、絶対そうもいかなくなるんだろう。そんな予感しかしない。
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