第67話 学校へ
リリアさんとキティさんに絵を見て貰った翌日、私は、学校を訪れた。リリアさんとキティさんが知っている絵画を見るためだ。久しぶりに来たので、入るのに少し躊躇いを覚える。
「取りあえず、事務室に行って入館証みたいなのを貰わないといけないのかな?」
学校の敷地の中に入り、事務室がある方に向かっていくと、その途中で人と出くわした。
「あれ? アイリス?」
「あっ、カーラ先生、お久しぶりです」
出くわした人は、この学校で教師をしているカーラ・クラウェイ先生だった。カーラ先生は、私の担任もしていた。
「どうしたの? 学校に忘れ物?」
「それならもっと早く来ますよ。ちょっと用があってきたんです」
「まぁ、そうだよね。でも、どこに用があるの?」
「実は、美術室に用があるんです」
私がそう言うと、カーラ先生は意外だという顔をした。学生時代、私は戦闘系の授業を受ける事が基本だったから、美術室にはあまり行っていない。先生もそれを知っているので、いきなり美術室に用があると言われて、驚いているんだと思う。
「そこにある絵画を見たくて、色々と事情があるんです」
「事情ねぇ。それは、聞かせてくれないの?」
先生に呪いの事を伝えれば、病院が教会に黙って検査したということを言わないといけなくなる。まだ働き始めの私に、そんなお金がないのは明白だからだ。下手に広めて、教会の耳に入ったら、かなり面倒くさい事にもなるしね。
「ちょっと込み入った事情でして」
「そう。それなら、深くは聞かないでおくよ。美術室には鍵が掛かっているから、私も一緒に行くわ。ちょうど授業もないし、私がいた方が学校内を歩きやすいでしょ?」
「ありがとうございます」
カーラ先生が一緒にいれば、堂々と学校内を歩ける。私はお言葉に甘えて同行して貰う事にした。カーラ先生と一緒に職員室で鍵を手に入れた後、美術室へと向かった。
「ちゃんと寝れてるの?」
「え?」
カーラ先生突然そんな事を言ったので、少し驚いてしまった。
「目の隈。化粧で誤魔化しているみたいだけど、誤魔化しきれてないよ。薄らと見えてる」
私は、思わず眼の下を触る。悪夢の呪いで寝られない時期に付いた目の隈は、今も取れていない。リリアさん達のおかげで、寝られるようになってもこの隈は薄くなるだけで完全には取れなかった。それ以来、外に出るときとかは、化粧で誤魔化していたんだけど、見抜かれてしまった。
「あのギルドは、あまり残業とかないって聞くけど、結構大変なの?」
「いえ、大変と言えば大変ですが、残業とかは基本的にないです。従業員は、結構多いですし」
ギルドの人材不足は、戦闘職員のみで受付や裏方の作業をする従業員は、意外と多い。王都のギルドだと、いくらいても足りないってなるみたいだけどね。あそこは、冒険者の数も桁違いみたいだから。
「なら、その隈は何?」
「ただの寝不足ですよ。最近、ちょっと不眠症気味なんです。病院には通っていますから、安心してください」
「安心してくださいって……まぁ、病院に通っているなら、私が口を挟む必要はないと思うけど」
先生にも心配掛けちゃった。でも、本当の事を全て話すわけにもいかないし、話したら話したで、心配掛けてしまうしね。
そんなこんなで、美術室の前まで来た。カーラ先生が、鍵を開けてくれる。
「えっと……」
美術室の中に入って見回す。どこに、リリアさんの言っていた絵があるか分からないので、隅々まで見るしかない。
「あった」
部屋の隅っこの方に例の絵は飾られていた。私は、例の絵の傍まで向かう。
「やっぱり、似てる……でも、リリアさんの言ったとおり、絵の一部を切り取ったみたい」
私が悪夢の中で見た光景は、この絵の中の事みたいだ。私が昨日描いた三枚とも、この絵の一部を切り取ったものみたいに見える。それぞれの特徴や風景が似ている場所がある。
「この絵が見たかったの?」
「はい。先生は、これが何の絵かご存知ですか?」
「東にあるラノマール遺跡に描かれていた壁画を写し取ったものね。あの壁画は、過去にあった惨劇……魔王との戦争を描いたものといわれているんじゃなかったかな。本当に昔のもので、数百年以上昔のものらしいよ」
先生の話から、あれが過去の光景だということは分かった。でも、何でいきなり数百年前の光景を見たんだろう。というか、少し気になる事があった。
「魔王なんて、実在するんですか?」
「昔はね。今は……どうなんだろう? 周期的には生まれていてもおかしくないはずだけど、確実に生まれるわけでもなかった気もする」
「よく知っていますね?」
「昔調べたからね。授業でやらなくなったから、少し気になったんだよ」
少し前までは、授業で魔王について習っていたみたい。何でなくなったのか私には分からないけど。
悪夢に魔王が関係しているのかどうか分からないけど、一番疑わしい存在なのは間違いない。
「もう大丈夫です。ありがとうございました」
「どういたしまして」
充分に絵画を見られたので、カーラ先生と一緒に美術室を出て行く。
「久しぶりに、学校を見て回ってきたら?」
「いえ、まだ授業をしているところもあるので、迷惑を掛けるかもですし帰ります」
「そう? じゃあ、校門まで送るよ」
鍵を返すために職員室まで移動すると、中から別の先生が出てきた。
「おお、ミリアーゼじゃないか」
「……どうも、ラグナル先生」
一番会いたくない先生にあってしまった。この人は、ラグナル・ラズロウ先生。戦闘系の授業を担当している先生だ。凄く暑苦しい先生で、頭の中まで筋肉で出来ているのか、どんなときもごり押しで進めていこうとしてくる。
それは授業も同じで、戦闘の駆け引きとかは一切なく、力業で押し切れば良いなどと言ってきたりしていた。結局、皆、反面教師にして、成長していった。向こうは気に入らなかったみたいだけど。
どうして、この人を雇用し続けているのか。それは、生徒達の中でも大きな謎として、語り継がれている。
「何だ、せっかく来たなら、授業を手伝ってくれ」
「いや、もう帰るつもりなので」
「学校に来たって事は、今日は暇なんだろ? いいから来い!」
ラグナル先生に腕を掴まれる。すかさず、カーラ先生割り込んでくれる。
「ラグナル先生、無理矢理連れて行くのはやめてください。アイリスが嫌がっています」
「せっかくの戦闘スキルを無駄にしているんだ。発散したいに決まっているだろう。だから、授業で発散させてやるって言っているんだ!」
ラグナル先生が、私を掴む腕の力を上げる。それにイラッときた私は、ラグナル先生の手首を力一杯掴む。スキルも使っての力一杯なので、ラグナル先生の腕の骨が軋む音がする。
「ぐっ……」
「いい加減離してくれますか?」
「ちっ! 巫山戯やがって!」
ラグナル先生が、私の腕を放す。自分の思い通りにならないからか、ラグナル先生が青筋を立てて、拳を握った。
「調子に乗るな!!!!」
そして、その拳を私目掛けて振り下ろしてきた。私は、その一撃を少し横に移動するだけで避ける。単調な攻撃なので避けやすい。
「貴様ぁ~~!!」
ラグナル先生は、さらに青筋を立てていく。自分の思い通りにならないため、怒り心頭に発しているようだ。
「カーラ先生、下がってください。危ないです」
私は、カーラ先生を背後に庇うようにして立つ。カーラ先生も戦えなくはないけど、魔法の方が得意なので接近戦は苦手のはず。それに、これは私の問題だと思うから。
「思えば、昔から、貴様の事は気に入らなかったんだよ!!」
ラグナル先生が拳を握って、攻撃してくる。昔から変わらず、力任せの攻撃だ。ガルシアさんとは、比べものにならないほど稚拙な戦い方だ。その攻撃は、さっきと同じように簡単に避けられる。
この騒ぎに気が付いて、職員室から他の先生達が顔を出してきた。そして、すぐに引っ込めた。この騒動に巻き込まれたくないからだと思う。
「避けるなぁ!!」
ラグナル先生が壁を殴ると、壁に罅が入っていく。単調な攻撃ではあるけど、その威力は凄まじい。なるべくなら、一発も貰わない方が良い。
そして、私は今雪白を持ってない。学校に来るだけだから、家に置いてきたのだ。そのため、腕に付けている宝級武器である槍を使うしかない。あのサハギンから貰った槍は、キティさんやライネルさん達の勧めで、名前を付ける事になった。その名前は、
「はああああああああああああ!!」
ラグナル先生の拳が、廊下の壁を砕いた。私は、その穴を通って外に出る。そして、天燐をブレスレットから元の姿に戻した。
「俺相手に、武器を取るか……良いだろう! 完膚なきまでに叩きのめしてやる!」
ラグナル先生は、骨を鳴らしながら降りてきた。ひょんな事から、先生と決闘のような事をする事になってしまった。面倒くさいけど仕方ない。こうなったら、叩きのめすまでだよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます