第50話 ダンジョン初期調査(2)

 ダンジョンの中は、思っていた以上に暗かった。でも、視界を確保できないほどでは無い。でも、なんで真っ暗じゃないんだろう。


「ダンジョンの壁が発光しているの。だから、ある程度の視界は保たれる。でも、それはある程度でしかない。十分な視界を確保するなら、ランタンを使用する事になる」


 私が疑問に思った事を察したのか、キティさんが説明してくれた。


「ただ、深い階層に行くと、その発光が弱まるダンジョンもあるみたい。私は、ダンジョンの深層に行ったことはないから、話に聞いただけだけど」

「キティの言うとおりだ。数は少ないが、そういうダンジョンもある。ここが、そうでは無いと良いが、今回の調査には関係ないな」


 初期調査で行くのは、一層、二層だけなので、話に出てきた深層に行くことはない。


「うし! じゃあ、先行するぜ。基本的に左優先?」

「ああ、いつも通りで良い」


 クロウさんが、先行して歩いていく。その後ろにライネルさん、ドルトルさんと続いて行った。私達もその後ろを歩いて行く。


「アイリスは、なんでギルド職員になったの? かなりの戦闘能力があるでしょ?」


 ライネルさん達の後ろに付いていっていると、マインさんがいきなり訊いてきた。ちょっとぶっきらぼうに言っているけど、マインさんなりに、親交を深めようとしてくれているのかもしれない。


「安定した給料が目的ですね」

「でも、冒険者になった方が一攫千金を狙えるでしょ? 強いなら、そっちの方が良かったんじゃないの?」


 確かに、冒険者になれば、一度の探索で大金を得ることも出来なくない。ただ、それにはより上位のダンジョンに潜ったり、依頼を受けないといけないので、リスクなども跳ね上がる。私の目的である平和な暮らしからは、遠くかけ離れる事になってしまうのだ。それに大前提の問題がある。


「あまり戦闘が好きじゃないんですよ」

「戦闘職員なのに?」

「それもお給料と採用されやすくなるかなって考えからなんですけどね」

「アイリスって、意外と馬鹿?」


 マインさんに呆れ顔でそう言われてしまった。自分でも給料に目が眩んだと思っているけどね。


「あはは……」

「でも、なんで、戦闘職員を続けているの? あんなことがあったんだから、ギルマスから、やめてもいいって言われてるでしょ?」

「守りたいものが、街にあるからです」


 そう言ったら、マインさんはきょとんとしてしまった。変な事を言ったかな。


「ふぅん。良いんじゃない」


 マインさんは、そう言うとぷいっとそっぽを向いてしまった。やっぱり、何か気に障ること言ってしまったのかな。


「ふふふ、そんなに気になさらないで大丈夫ですよ。マインは、馬鹿って言ったことを反省しているだけですから」

「ちょっと! ミリー!」


 マインさんが、ミリーさんに怒る。ミリーさんは、悪びれもせずニコニコとしている。これが、ミリーさんとマインさんの日常なのかもしれない。


「話しているのは良いが、敵が来たぞ」


 ライネルさんがそう言った直後、全員が臨戦態勢に移った。マインさんが杖を、キティさんが魔力弓を構える。私達の向かう先から現れたのは、湿った鱗を持つ半漁人だった。一体では無く数体いる。先行していたクロウさんは、いち早くライネルさんの目の前まで退いている。


「サハギンか。湖の近くということもあって、ああいった魔物が多くなるのかもしれないな」


 ライネルさんがそう言った後には、もうサハギンの死体しか残っていなかった。キティさんの矢とマインさんの魔法がサハギンを倒していたのだ。キティさんは、サハギンの頭を正確に射貫き、マインさんは、『ウィンド・カッター』と呼ばれる風の刃で、頭を斬り飛ばしていた。


「無詠唱ですか?」


 マインさんが詠唱を唱えているところを見ていないので、少し気になった。


「いや、既に済ませておいただけよ。アイリスと話している時には、もう詠唱は終わっていたから。それを保持しておいて、今放ったのよ」

「そうなんですか!? いつの間に……」

「詠唱って言っても、大声でやらないといけないわけじゃないし、私は高速詠唱が出来るから」


 マインさんが自慢げにそう言った。実際に、高速詠唱は高等技術だからすごいことだ。さらに、魔法を放たないで、保持しておくのには集中力が必要だと聞く。それを、私と話しながらしているというのも驚嘆だ。


「これでも、学校の魔法科を飛び級と主席で卒業しているからね!」

「えっ、そうなんですか? じゃあ、今はお幾つなんですか?」

「十七!」

「私の一つ上なんですね。それなのに、冒険者として活躍しているなんてすごいです!!」


 私の一つ上の年齢だけど、マインさんは、冒険者として、かなりの活躍をしている。ライネルさんのパーティーは、成立してから二年の若いパーティーにも関わらず、スルーニアでもかなり有名だ。そろそろ金級にいってもおかしくないと言われている。


 マインさんは、褒められ慣れていないのか、少し恥ずかしそうにしていた。


「あら、マイン、顔が真っ赤ですよ」

「うるさいわね!」


 そして、それをミリーさんにからかわれていた。


 そうして、遠距離から魔物を仕留めて進んで行くと、早くも二層への階段を見つけた。


「階段はあるが、このまま一層を完全攻略する。一度、さっきの分岐まで戻るぞ」


 私達は、一個前の分岐に戻る。ここまでの魔物は、数こそ違えど、全員サハギンだった。


「ここは、サハギンのダンジョンなんでしょうか?」

「確かに、一系統しか魔物がいないダンジョンは、いくつかあるな。ただ、この下に行けば、サハギンの上位種が現れるかもしれないな。一系統だけといっても、一種類だけのダンジョンというのは、見付かっていないんだ」


 つまり、サハギンとその上位種のダンジョンという可能性が高いということかな。魔物の種類特定も調査の一つだから、こういうこともメモしておかないといけないね。


「サハギンの素材って使い物になります?」


 今まで倒したサハギンが落とした素材は、鱗だけだった。何体か倒していて、全部灰になるものが多い中、鱗しか手に入らない。しかも、微妙に湿っている。


「一応、水属性の耐性が付くらしいですよ。後は、何故か撥水性も高まるみたいです」


 私の疑問にミリーさんが答えてくれた。サハギンの湿った鱗も役に立つことがあるんだ。少し意外だった。


「ここまで、罠もないから、初心者向けのダンジョンになるかもね」


 マインさんが、ここまでの道のりを振り返りながらそう言った。


「初心者向けとかの線引きはどうしているんですか?」

「魔物の強さと量、階層の深さ、罠の有無が関係している。そのどれもが低い程、低級向けになっていく。今のところ、このダンジョンは、罠もないし魔物も弱いから初心者向けになる可能性が高いって事」

「なるほど。じゃあ、より詳しく調査した方が良いですね」

「ん。階層以外は、一層と二層である程度判断出来る。罠に関しては、一層からあるものもあれば、五層からみたいなところもある。でも、浅い階層に、罠がないのは易しい証拠」


 キティさんが補足も含めて説明してくれた。ダンジョンに関しての知識が浅いから、すごく助かる。学校での授業では、ダンジョンというものがあるって事や、スタンピードが起こるってことしか習っていないから。


 この後、私達は、一層をくまなく調査をした。多分、一日で一層の全てを調査出来たので、かなり調子が良いはず。そして、各階層に一部屋あると言われる安全部屋に移動して、睡眠を取ることになった。キティさんと一緒に買ったテントを張って、一緒に眠りにつく。一応、寝袋は別だ。ライネルさん達と相談して、交代交代で見張りをする事になっている。相談の結果、男子陣と女子陣で分かれての見張りに決まった。


 そして、私の見張りの時間がやって来た。


「あっ、おはよう」


 私が、テントから出て行くと、既にマインさんが起きていた。キティさんも私の後に続いて出てきた。


「おはようございます。ミリーさんは……?」

「ああ。ミリーは、寝起きが弱くてね。今、頑張って起きようとしてる」


 ミリーさんは、テントの中で戦っているようだった。それから、ちょっとした雑談をしていると、五分くらいで、ミリーさんが現れた。そして、二時間くらい経った後に、ライネルさん達も起きてくる。


 皆で簡単な朝食を食べたところで、二層の調査に移っていった。

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