第47話 復帰後の周辺調査(2)

 翌日、調査の準備を済ませた私とキティさんは、街の外の北西を目指していた。


「こっち側も森に覆われているんですね」

「ん。でも、その真ん中にでかい湖がある。そこが、レイク・サーペントの縄張り。縄張り主は、ここ十年以上変わっていないって聞いた。だから、ギルドも焦ってる。縄張りの主の魔物が変われば、周囲の生態系に影響を与える。その結果、強力な魔物、厄介な魔物が住み着くかもしれない。それらを確認するために、私達が行くの」

「なるほど、じゃあ、その縄張りの主と戦う必要はないんですね?」

「多分。向こうの気性が荒かったら、戦闘になる可能性は高い。油断しちゃダメ」

「分かりました。気を引き締めます」


 多分、ジェノサイドベアみたいなことはないと思うけど、レイク・サーペントも十分危険な魔物なので、追い払った魔物も相当の強さになるはず。下手したら、ゴブリンキングみたいな相手が出て来るかもしれない。戦う覚悟だけは決めておかないといけない。


 私とキティさんは、森の中をどんどんと進んで行く。


「そろそろ、湖。どこかに痕跡がないか探す」

「分かりました」


 湖から離れた森の中を探索していると、色々と魔物の痕跡を見つけた。でも、そのどれもが、レイク・サーペントを脅かすような魔物では無かった。


「ここら辺にはいないのかも。湖の周辺を調べてから、湖を調べる」

「湖からではないんですか?」

「まだ湖にレイク・サーペントがいたら、確実に戦闘になる。出来る事なら、戦闘は避けておきたい。あれの毒は面倒くさい」

「いる可能性があるんですか?」

「可能性だけ。無い可能性の方が高い」


 キティさんは、なるべく安全面を優先して、調査をするつもりらしい。私も、その方が良いと思う。私達は、湖の周辺を一周して、痕跡を探した。しかし、レイク・サーペントを脅かすような魔物の痕跡は、見付からなかった。でも、収穫はあった。


「ここの周辺で見た事無い魔物の痕跡がある。何かしらの異変はあったみたい」

「どんな魔物なんですか?」

「ん。スパイク・リザード。とげとげが付いた蜥蜴。普段は、北から東に掛けて、生息している」

「じゃあ、西側よりにいるのは、おかしいって事なんですね」

「ん、その通り。でも、こいつもレイク・サーペントより弱い」


 つまり、スパイク・リザードが原因では無いということかな。自分より弱い敵を警戒することもないだろうし。じゃあ、レイク・サーペントが姿を消した理由は、どこにあるんだろう。


「湖を調べる。レイク・サーペントがいる可能性があるから、警戒して」

「はい」


 私達は、レイク・サーペントがいたはずの湖に向かっていく。キティさんの案内で、湖周辺を調査した時にも思ったけど、この湖は、結構でかい。周囲を歩くだけでも結構時間が掛かった。


「レイク・サーペントは、どのくらい近づいたら現れるんですか?」

「湖に触れたら、上がってくる。中に入ろうとすれば、襲ってくる。ただし、苛ついているときは、近づくだけで攻撃してくる」

「つまり、湖に近づいて、レイク・サーペントが現れなければ、レイク・サーペントがいないということになるんですね?」

「ん。多分、冒険者達が、レイク・サーペントの素材を採ろうとして、現れなかったんだと思う。だから、私達に仕事が回って来た」


 湖に近づいて現れてくれれば、気のせいや偶々として、処理出来る。でも、現れなかったら、異常があったって事だから、原因を特定しないといけない。


「じゃあ、私が近づいていくので、キティさんは、現れないか見ていて下さい。私達の装備的に、その方が良いと思いますので」

「……ん。分かった」


 キティさんは、少し納得いっていなさそうだけど、頷いてくれた。私が一番危険な役割だからだと思う。前なら、キティさんが行くの一点張りだったかもしれない。あれから色々とあったから、信じて貰えるようになったって考えれば良いかな。


 私は、雪白を引き抜いて、湖に脚を踏み入れていく。でも、レイク・サーペントは現れない。膝くらいまで浸かっても、レイク・サーペントは疎か、他の魔物も出てこなかった。


「キティさん、どう思いますか?」

「ここまで縄張りを侵犯して出てこないということは、レイク・サーペントはいない。つまり、何かしらの異変があったって事になる」


 私は、湖から出て、キティさんの元に戻る。


「レイク・サーペントを脅かすような魔物はいなかった。でも、実際にレイク・サーペントはいない。じゃあ、他の理由がある」

「他の理由ですか?」

「ん。その前にズボンを乾かそう。焚き火を熾すから」

「あっ、ありがとうございます」


 キティさんが手早く焚き火を熾してくれた。火の付け方は簡単。先端から小さな火が出る魔道具で、繊維などを燃やしつつ、枝に火を移らせれば終わりだ。私が生まれる前は、一から火を熾さないといけなかったみたい。魔道具様々だね。


「それで、他の理由とは一体何なんですか?」


 焚き火を熾す前にしていた話の続きを振る。


「ん。魔物が縄張りを離れる理由は、複数ある。一つは、自分を圧倒する魔物が近くに来ること」

「私達やガルシアさんが、最初に考えていた事ですよね?」

「ん。これの他に、周囲の魔力が異常に高まるって事がある」

「周囲の魔力が高まる?」

「主にダンジョンが出来る時が、これに該当する」

「じゃあ、近くにダンジョンが出来ている可能性があるということですか?」


 近くにダンジョンが出来ているとしたら、他の魔物の縄張りになっているよりも不味い状況になるかもしれない。特に、スルーニア周辺は、ダンジョンが多いことで知られている。今更、一つ二つと思われるかもしれないが、実際のところ管理するダンジョンが増えるのは、ギルドへの負担が大きくなってしまうのだ。つまり、スタンピードなどの察知が遅れる可能性が出て来る。それは、街の防衛という面から見ても、かなりまずいことだ。


「ん。一度戻るかそれらしきものを見つけるかになる。私としては、後者の方を優先したい。事が事だから」

「そうですね。その方が良いかもしれません。でも、ある程度の当たりは付けたいところですよね」

「この湖からそう離れていない場所だと思う。大体、五百メートル範囲かな」

「今日中に探しきることが出来ればって感じですね」

「ん。乾いた?」

「はい! もう大丈夫です。行きましょう」


 ズボンも乾いたところで、私達は、レイク・サーペントが消えた原因と思われるダンジョンを探しに向かった。これで、ダンジョンがあれば、原因を特定出来た事になる。でも、ダンジョンがなければ、やはり、他の魔物の縄張りになっている可能性が高くなってしまう。


「どっちに転んでも、不味い状況ですね」

「ん。どっちにしても、早期解決するのがいい」

「じゃあ、頑張って探しましょう!」

「ん!」


 私達は、周囲の痕跡を見つつ、ダンジョンと思しき物がないかを探す。森の中を探し始めて一時間程で、不自然なものを見つけた。絶対に森の中にないとも言えないが、今までの森の中に似たようなものは一切無かった。


「キティさん、あそこに変なものが」

「ん?」


 私が指さした方向に、キティさんが視線を向ける。


「アイリス、お手柄」


 キティさんが、背伸びをして頭を撫でてくれる。


「ありがとうございます。じゃあ、あれが……」

「ん。ダンジョン。その入口」


 私達の視線の先にあるのは、森の中では、不自然な石のアーチが付いた洞穴と、その中にある下り階段だ。情報を手に入れた私達は、ガルシアさんに報告しにギルドに戻る。

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