ソバって何ですか?
「その時だ、オンボロの屋台から匂った香りがオレの空腹を刺激した。ゴブリンが何処で知ったのかわからんが、屋台からは東方料理のソバの香りがしていた」
周りの客のどよめきが増す。
ソバという料理を知ってる者と知らぬ者が 顔を見合わせて、ソバとは何かと解説が始まった。
冒険者もソバという料理のことは聞いたことがあったが食べたことは無かった。
「怪しかった、怪しかったがオレは空腹に負けて屋台の椅子に座った。万が一ゴブリンに襲われても勝てる自信はあったし、一応周りへの警戒はしていた。だが何よりそのソバを食べてみたいとオレは・・・・・・というか空腹が訴えたわけだ」
金髪の冒険者が笑って話す。
周りの客たちもつられて笑う。
「やたら荒く削られた木の枝を二本渡された。ハシ、だそうだ。本来とは違い不揃いなそれは持ちにくいたらありゃしなかった。オレの文句にゴブリンは無愛想な顔で頷いてやがったよ」
金髪の冒険者は指で不揃いのハシを再現したり、眉をぐっとしかめてゴブリンの無愛想な顔を再現したりして客を笑わせていた。
吟遊詩人でもやれば儲かりそうだ、と冒険者は思った。
「ゴブリンが火打ち石を叩いて屋台に備え付けられた鉄鍋に火をつけた。そこからは案外早かった。馴れた手つきで鍋からメンを掬い上げて木製の器に入れた。別の鍋からダシを掬って、その上からぶっかけた」
ソバを知らない者もわかるようにと金髪の冒険者が身振り手振りで作る行程を説明する。
だが、メンに首をかしげた者は理解が追いついていなかった。
「出されたソバは、メンの上に何かの肉と何かの山菜が浮かんでいた。肉は食べた感じだと鶏肉だと思う。メンは少し柔らかすぎたが期待以上に旨くてなー。オレはつるつるっと一杯を直ぐ様平らげた」
ぷはー、っと汁まで飲みきる仕草を金髪の冒険者はして、周りの客の喉を唸らせる。
「んで、まぁここまでは偶然空腹を満たされてラッキーな話だったんだが、面白いのはここからよ」
金髪の冒険者が前のめりになって話す。
「相手がゴブリンとはいえ、屋台だ。このソバは一杯いくらなのかと聞くと、ゴブリンは何かを思い出すように上を向いた後、銅銭十六枚と答えた」
猪肉とキノコと山菜の炒め物と同じ値段じゃないか、と冒険者は驚いた。
酒は一杯、銅銭二枚。
「オレはそれを見て閃いちまったわけだ。値段に対してあやふやなんじゃないかと。そこで、ゴブリンに手のひらを出してもらった。お代の銅銭をそこに置いていくと言ってな。一枚、二枚、三枚、四枚、五枚、六枚、七枚、八枚・・・・・・」
話の流れがわからなくて周りの客がどういうことかとざわめく。
まぁまぁ、とたしなめて金髪の冒険者は話を続ける。
「銅銭八枚置いてオレはゴブリンに訊ねた。ところで、今何階層だ?、と。九階だ、とゴブリンがぎこちなく答えてオレはお代置きを再開した。十枚、十一枚、十二枚、十三枚、十四枚、十五枚、十六枚」
金髪の冒険者はニヤリと口角を緩める。
客たちが話の意味に気づくのにほんの少し間があったが、その気づきは波のように広がっていった。
一枚誤魔化しやがった、と冒険者も遅れて気づいた。
金髪の冒険者の話はそこで終わる。
ゴブリンを騙したまま無事に洞窟探索が終わり依頼を達成して帰ってきたらしい。
銅銭十五枚で一食済むのなら試してみたい話だがそもそもそんな深い洞窟に行く依頼を受ける気は更々ないと冒険者は思い、すっかり固くなった冷めた猪肉を口に放り込み食事を済まし席を立った。
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