天職辞めます
「という訳で辞めます!」
カウンターにドンとギルド職員の腕章を置き、目の前のフィリアさんに告げる。
「あの、という訳でと言われても……いきなり休みの日に顔を見せたと思ったら何ですかそれ? 辞めるって何故です?」
「ふふふ……それはね。」
困惑するフィリアさんに対し、僕は余裕の含み笑いだ。
「僕が……
「うざ……」
フィリアさんの冷たい態度にも全くダメージを受けない。ユニークだから効かない。
「まあ究極的には辞める辞めないは個人の自由なのですが、でもライトさん今まで楽しそうにしてたじゃないですか。昨日だって……。やっぱりライトさんにはギルド職員は向いていると思いますし、私としてもあなたにはいてほしいんですが」
惜しむように僕を引き留める彼女に、太陽の絆に焼き尽くされた心が癒されるのを感じる。ぐっと心を動かされつつ、僕も惜しむように言葉を返す。
「僕も楽しかったし凄く勉強になりました! でもがっかりしないでください! 僕がこの決断に至れたのもギルドで働いたからこそなんです!」
色々な意味でギルドの仕事は世界を広げてくれた。フィリアさんが誘ってくれなければ、今の自分は無かったかもしれない。
「へへ、それにね……これはギルドにとっても良い話なんですよ。今はまだ内緒ですが……きっとこの街のギルドは賞賛されますよ。それは間違いない……へへ……」
「はあ……」
ピンと来ていない様子のフィリアさんだが、それもいずれ解るだろう。このギルドは偉業を成し遂げるのだ。世界初のSランク……いや、SSSSSSSSSSSSSSSランクパーティ級ソロ冒険者、『唯一無二のライト』を輩出したという偉業を!
「という訳で今日は外で遊んできます! それじゃあ!」
「あ、あの! もし戻って来るなら早目にお願いしますね!」
あまり僕の言う事を真に受けた様子の無いフィリアさんに苦笑しつつも、僕は街の外へと駆け出していった。
◇◇◇◇◇
「ここは外だ! バリオンの街の外だー!」
久しぶりの街の外にテンションが上がり、思わず全部言葉に表してしまう。
街道から外れて少し歩けば人の気配はほとんど完全に消える。広々とした景色にこれからの事を思い浮かべてわくわくする。ここなら思いっきり力を試す事ができる。
「さて……
僕はいつものように目前にステータスを開いた。昨日と変わらない力の強さ、丈夫さ、風魔法の数値を見て笑みがこぼれる。そして比較的ささやかな数値の他の項目。
僕はポケットからペンを取り出し、素早さの数値に9999を書き込んだ。まあ別に11111でも100000でもいいんだけど……とりあえずこれで十分。十分に最強だ。
「う……うおお! 来たぞ!」
体中の筋肉が異様なほどの軽やかさをまとう。ただスッと腕を上げたり下げたりするだけの事が異様なほどにスムーズに行える。これまでの自分の体を動かす様がいかに重苦しいものだったのかという事を今はじめて理解した。
「この今までの世界が変わっていく感覚! これだ! これが
普通人は1%も目の前の世界を理解していない。最強にしか見えない世界がある。この世のあらゆる全てを踏破する冒険者がいるとしたら、そいつは最強のステータスを持っている。
「行くぜ!」
地面を後方に思いきり蹴ってばく進する。ただ走り始めるというだけの事で爆発のように地面をえぐり、土煙が上がっていく。壁のように押し寄せる風をものともせずに、周りの景色を超高速でスクロールさせていく。
目指すはずっと目の前に見えつつも遥か遠くにそびえ立つ壁。 山脈! 僕は今から山脈を
「うおおおおおお!」
山脈の根本まで辿り着いた僕は思いっきり地面を蹴り上げて跳躍した。ぐんぐんと視界が高度を上げて行き、やがて見上げる対象だった山々が眼下にまで下りてくる。山の上はひしめくように折り重なった無数のダンジョンと、その上を這いまわるモンスターでごった返していた。
「うひいっ、さすがそうそう人が登れない山脈! 誰も処理しないとこんな風になるのか!」
ダンジョンは放置すると中で増えたモンスターが外部へと湧き出し、そのモンスターの一部がまたボスとなってダンジョンを展開する。人間が生活圏を維持するためには手の届く範囲での定期的なダンジョンの攻略破壊は不可欠な事であり、逆に言えば人間の生活圏が限られている以上はこの世界からダンジョンが無くなる事は無いのだった。
「よいしょっと!」
僕を超高度の上空まで辿り着かせたのがただのジャンプである以上、当然自然落下に任せて落ちていく。行きつく先は山の上。マジックミサイルのような超高速を帯びて山頂に突き刺さり、轟音と土煙を上げながらの着地を決める。
周りの大小さまざまなモンスターが警戒するようにこちらを向く。ポイズンワーム、ハイオーク、ワーグ、サイクロプス……Bランクパーティが数匹ずつを相手どるべきモンスターが100を越えた数で僕を囲んでいる。
「へえ……凄いな」
その壮観な光景を見て、僕は驚いていた。
「これだけのモンスターに囲まれて
僕はおよそ十日ぶりに剣を構えた。
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