第2話
北灯の突然の告白に僕は言葉を失った。店内の暖房が稼働する音が聞こえる。
脳が回らない。何も考えられない。展開の速さに頭が真っ白になっていた。
「ねえ聞いてる?」
「え、あ、うん」
……そうだった。何を驚いているんだろう。
彼女は僕とは違い、即断即決だ。
今日の注文の際も一切の迷いなく「ポテトください。メガ盛りで」と言い放ったじゃないか。僕はまだメニュー表も開いていないのにだ。「全部食べられるの?」と訊くと「私が食べられなかったら豊城くんが食べればいいでしょ」と即答されたので僕は開きかけたメニューを閉じた。
とにかく彼女の決断は速い。
そんな彼女が僕を好いてくれたのだとしたら、その先の行動ももちろん即断だったはずなのに。
「……返事、もらっていい?」
テーブルにポテトはもうない。真っ白な皿が置かれているだけだ。彼女の視線はすべて僕に向いている。
よろしくお願いします。そう言えばいい。
僕も北灯のことが好きだからだ。そうすれば晴れて彼女と付き合うことができる。好きな人に好かれていることほど嬉しいものもないはずだ。
なのに、どうして僕はこう答えてしまうのだろう。
「もう少しだけ考えさせてください」
僕の返答を聞いて「豊城くんならそう答えるかもって思ってたよ」と彼女は苦笑しながら頷いた。
「じゃ、今日は帰ろうか」
北灯は鞄を持って立ち上がる。僕も遅れて立ち上がった。時計の針は五時四十五分を指している。
伝票を持ってレジに向かいながら、僕はどうしてあんなことを言ったのか考えていた。
***
「うわ、寒いね。もう冬だ」
ファミレスを出ると、日はすっかり落ちて夜の様相を呈していた。店内とは別世界のような空気の冷たさに、北灯は両手を擦り合わせながら白い息を吐く。
「じゃあまた明日学校でね」
「ああ、また明日」
どうして僕はあんなことを言ってしまったのか。小さな背中を見送りながら、僕はようやくその答えに辿り着いた。
どういうわけか「自分から告白したかった」と思ってしまった僕がいるからだった。
何を言ってるんだと自分でも思うが、思ってしまったものは仕方ない。本当は僕が彼女に告白するつもりだったのだ。そのための練習やシミュレーションも重ねてきた。
しかし何を言っても時間は食べ終えたポテトフライのように戻らない。僕がもう少しだけと言っている間にすべて無くなってしまった。だから尚更その思いが強まる。
彼女の告白はもちろん嬉しい。
けれど、それ以上に悔しいと思ってしまったのだ。
もう少しだけ、僕の判断が速ければ……!
「――え」
それを理解したのは唐突だった。
何がどうなったのかわからない。神様の気まぐれかもしれないし、僕の強い思いが奇跡を生んだのかもしれない。
僕に超能力が目覚めていた。
まるで夢の中のように自分にはどんな能力が宿っていて、どうすれば使えるのかも不思議と分かっている。
僕はすぐに、いややっぱり少しだけ考えてからその能力を使った。
効果音も演出光もない。
ただただ目の前の景色が変わっただけだ。
「ポテトってさ、もう一本だけもう一本だけって思いながら摘まんでたらいつの間にか無くなってるよね」
――四人掛けテーブルの中心には、残り三分の一ほどになったポテトフライの山が置かれていた。
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