第96話 いざ職人の店へ

「うぅ、頭が痛い……昨日私どうしちゃったんですか?」


 朝セレナと顔を合わせたけど今回もしっかり記憶をなくしてるようだった。


 前にお酒を呑んだときもそうだったんだよね。あの時はガイがずっと絡まれていたから僕は特に何かあったわけじゃないけど見てて大変だなとは思ったよ。


「セレナ。やっぱり貴方これからお酒は控えるべきね」

 

 フィアも部屋から出てきてセレナに注意した。セレナはなんというかとんでもないことになってたからね。


「お酒? 私、昨日は呑んでませんよ?」


 セレナがキョトン顔だ。そうだった。昨晩のは店員の間違いだからセレナには自覚がないんだろうね。


「やっぱりお酒には気をつけないとダメだね」

「スピィ~……」

 

 本当しみじみそう思う。スイムも同感という空気をにじませていた。そしてエクレアも部屋から出てきた。


「おはようセレナ。昨日はかなり酔っ払ってたみたいだけど大丈夫?」


 エクレアも合流しセレナを気遣った。問題はセレナにその自覚がないことだけど。


「もうエクレアまで。私、昨日は呑んでませんよ~二人共きっと呑みすぎて記憶があやふやなのですね。いいですか? お酒は呑んでも呑まれるな、ですよ?」

「「「え~」」」

「スピィ~……」


 何か僕たちが呑み過ぎみたいな空気になったよ。ふぅ、仕方ないね。


 その後、僕たちは宿の浴場で身綺麗にし、食堂で朝食を食べた。


 昨日あれだけ食べたのにセレナはぺろりと平らげてパンもお代わりしていた。本当どこに入ってるんだろうね。


「さ! いよいよ職人地区ね!」


 セレナが張り切った。いつもの落ち着いた雰囲気が一変して随分とテンションが上がってる。


「この坂を登った先から職人が増えて店も多くなるのよ。別名職人通りスミスストリートと呼ばれるぐらうなんです!」


 セレナの口調に力が篭ってきたよ。


「そういえば鉄を叩く音が響いてきたわね」


 フィアから説明を受けエクレアが耳を澄ませ言った。たしかに上に行くほどハンマーの音だったり釘を打つ音だったり織機の音だったりが響き渡ってきた。


「うわ~これよ! これが職人の空気なんだわ!」


 坂を登りきったところでセレナが両手を祈るようにして感嘆の声を上げた。


 建物の多くにh煙突が備わっていてモクモクと煙を上げている。道では木材を運んでいたり大きな石を運んでいたりする人も見られた。


『馬鹿野郎! こんな適当な仕事で俺が満足すると思ったか!』

『すみません親方!』

『こんな値段で請け負えるかよ一昨日来やがれ!』

『素材が手に入らない? それを何とかするのがお前の仕事だろうが!』


 そして何だか怒鳴り散らすような大声もよく聞こえてくる。


「な、何か怖そう……」

「スピィ~……」


 僕もスイムも気後れしてしまったよ。僕なんかが入って大丈夫かな?


「フフフッ。ネロもまだまだですね。職人はこだわりが強いからその分どうしても厳しくなるのです。ですがそれこそが職人のいいところなんですよ!」


 ぐいっと顔を近づけてセレナがちょっと怖いぐらいの圧力で語ってきた。

 

 セレナ本当に職人が好きなんだねぇ。


「まぁ気性が荒い人が多いのよね」

「こだわりです! こだわり!」


 苦笑いするフィアにセレナが指摘した。


 何はともあれ僕たちはそれぞれの店を覗いてみることにした。


 セレナが詳しそうだから彼女に案内してもらう形でね。


 それから何件か回ってみたんだけどね――

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