第92話 とりあえず食事!

 僕たちはその足で依頼の届け先に向かった。お酒の配達だけあって受取り相手は酒屋の店主だったよ。


「いやいや本当に助かったよ。ありがとうね。そうだこれよかったら貰ってくれ」

「いや、流石に悪いですし……」


 届け先の店主がお酒を持ってきてお礼だと渡してくれた。だけど依頼料はしっかりギルドから貰うしちょっともうしわけないかな。


「いいんだよ。それに丁度試作品のお酒でね。よかったら呑んだ感想でも教えてくれよ」

 

 そう言われてしまって僕は戸惑っていたんだけど。


「それならせっかくなので頂きますね」


 そう言ってフィアが袋に入れられた酒瓶を受け取ってしまった。店主も笑顔で再度お礼を言ってくれた。


 そして僕たちは届け先に挨拶し今度はギルドに向かったんだ。


「ネロは真面目よね。でもね相手が感謝の気持ちで何かしたいって思ってるときは快く受け取った方が喜んでくれるのよ」


 ギルドに向かう途中フィアにそう教えられた。無下に断っても気分を害されることもあるってことか。


 ギルドの規定でも個人的にお礼を受け取る場合は自己責任の範囲で可能とされている。勿論ギルドを通さないで依頼料を勝手に貰うとかはご法度だけどね。


「折角貰ったけど僕はお酒あまり呑めないんだよね」

「大丈夫よ。私もエクレアも呑めるんだし♪」

「あはは、確かにちょっと試作品に興味あるかも」


 フィアが機嫌よく言うとエクレアも頬を描きながら答えた。そういえば前に食事に行ったときも二人は呑んでいたね。


「セレナはお酒呑めるの?」

「少しだけ……」

「セレナは呑めないわ! 食べるの専門よ!」

 

 エクレアに聞かれセレナが控えめに答えたけどすぐにフィアが訂正した。


 うん……気持ちはわかるかな。


 さて冒険者ギルドについたね。僕たちは受付で依頼完了の知らせをした。

 

 ギルドの依頼は今回みたいな荷運びの場合、運び先のギルドでも依頼料を受け取れる仕組みになっている。


 このあたりはギルド同士で依頼料の取り決めとか色々あるようだけど、遠方の場合いちいち戻って依頼料を受け取るのは大変だからそういう仕組みにしてるみたいだよ。


「確かに。ではこれは報酬の五万マリンとなります」


 男性の受付が応じてくれて報酬を支払ってくれた。内容も特に問題ないみたいだね。

 

 これを四人で分け合って依頼は完了と――


「ねぇ今日はそろそろ良い時間だし店回りは明日にして食事にしない?」

「はい! お腹を満たすのは大事ですね!」


 フィアが食事を提案しセレナが興奮気味に答えた。確かに今日はいろいろあってもう夕方になるしそれもいいかもしれない。


 このギルドも酒場が隣接されているしね。ここの酒場はわりとオープンな感じで既に多くの客がお酒を愉しんでいる。

 

 冒険者だけじゃなくて住人も一緒のようだね。歌を謳ったり踊りを踊ってる女の子もいて酒場は大分賑やかに見える。


「じゃあ食べて行こうか?」

「うん。またフィアやセレナと一緒に食事出来て私も嬉しいし」

「スピィ~♪」


 エクレアも乗り気だしスイムもご機嫌だ。というわけで僕たちは酒場で食事をしていくことになった。


 店員に人数を伝えたら空いている席に自由に座っていいと言われた。本当にオープンだね。


「座っていいと言っても結構混んでるわね」


 フィアが酒場を見渡しながら言った。確かに賑やかで席もほとんど埋まってるね。というか空いてるんだろうか?


「食事を期待させて座れないとかあんまりですから!」


 セレナが若干不機嫌そうに声を上げた。食べ物が絡むとちょっと性格変わるかも……。


「あ、でもあっちの入口近くが空いてる!」


 エクレアが指さした場所が確かに空いてるね。しかも丁度良く四人掛けの椅子だ。


 う~んでもこの状況で何かポツンっとあそこだけ空いてるような……たまたまかな。


 僕たちはその席に座り、メニューを見た。料理が豊富だね。肉系が多いよ。


「ヒック。おい、空いてるか~?」


 僕たちが何を頼もうか悩んでいると一人の老人が店に入ってきて店員を呼んだ。


 顔が既に赤い。もう呑んできたのかもしれない。


「ワン爺さんか。困るよ。もうこないでくれと何度も言ってるだろう?」

 

 するとやってきた男の店員――もしかして雰囲気的に店長かな? が眉を顰めてワンと言われた老人に対応した。


「何だその言い草は! 客が酒を呑みに来たんだ! 黙って席に案内しやがれ!」

「それなら溜まったツケを支払ってくれ。金も支払わず酒だけ呑んで帰られたんじゃこっちも商売上がったりだ」

「なんだと!」


 な、何か店としては厄介な客らしいね。それにしても僕たちの近くでこんなやり取りを見ることになるとは思わなかったなぁ――

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