第337話

 カン! カン! カン! カン! カン! カン! カン! カン!

 

 レグザール砦全体に敵襲を報せる鐘の音が鳴り響いている。

 宿舎全体が騒々しくなり、あちこちからドアを慌ただしく開け閉めする音が聞こえてきた。


 俺はベッドから素早く跳ね起き…………コホン、普通にベッドから身を起こした。寝起きなのだから仕方ない。

 外着のままで寝たもののさすがに装備は外してるので、床に置いてた軽鎧を装着していく。

 軽鎧を装備し部屋のドアを開け、表に出ようとする兵士達に混ざって宿舎の廊下を走って外へと出る。

 それまで並走していた兵士達は砦の西側の防壁へ。

 俺は臨時に指揮所が設置されたすぐそこの中央広場にある天幕へと向かう。

 念のため、戦闘に参加する旨をこの砦の指揮官であるジェラード隊長代理に伝えるべきだと判断したのだ。無論コートダール軍司令の意向を受けてのものだ。


「ジェラード隊長なら既に西側防壁へ向かいましたよ」


 天幕の入り口に立っている兵士にそう言われた。

 どうやらジェラード隊長代理は陣頭で指揮するタイプらしい。顔に残る刀傷は伊達ではないってわけか。

 飛行魔法でその場から一気に西側防壁へと飛んだ。



 レグザール砦西側の防壁は他の三方の防壁よりも高く立派に造られている。

 南砦の防壁よりも高く、バルーカの城壁に迫るぐらいの立派さだ。

 しかしながら近くで見ると、広範囲に渡ってヒビが入っていたり崩れてる部分があって、オーガの投石攻撃によってもたらされたダメージの大きさを物語っている。

 その西側防壁の中央部、西門の上の他より幅があるスペースにジェラード隊長代理が数人の幹部らしき兵と共にいた。

 すぐそばに着地する。


「ツトム殿か…………、敵はもうすぐ姿を現すだろう」


 西門から400メートルほどは平地でその向こうは森が続いている。

 森の中を魔物の集団がこの砦目指して進軍中らしいのだが……


「飛行魔術士がいないのにどのように偵察を?」


 この砦にいた飛行魔術士は第2波攻撃で戦死している。


「斥候職を含めた足の速い小隊を偵察に出している」


 地上からの偵察なのか……


「危険ではありませんか?」


 言ってくれれば偵察ぐらい俺がやっても良かったのに。


「そりゃあ一定の危険はあるが……

 飛行魔術士がいたとしても偵察は地上から行うのが基本だ。

 この砦の西側はもう魔族の支配地域なのだ。そこを飛べば飛行種が迎撃に上がってくる」


 飛行種か!?

 未だその姿を見たことがないが(アルタナ王国で遭遇した異形種を除いて)、飛行種相手の空中戦は自殺行為らしい。

 ロザリナにも初めてコートダールに行く時に警告されたな。


「飛行魔法は難易度の高い魔法ではないが習得には適性が必要だ。

 危険度の高い魔族領域への偵察任務に就けて使い減らすことはできない。

 バルーカでは違うのかね?」


 バルーカでは割と自由に飛んでるけど…………あぁそうか。


「バルーカの南は軍が定期的に掃討作戦を実施していて、言わば魔族領域との緩衝地帯になっており比較的自由に飛べました。

 ただ、南砦に滞在していた時は魔族領域への偵察は許可されませんでしたね」


「まぁそうだろうな…………出て来るぞ!」


 木と木の間隔が広い箇所から大岩を担いだオーガが次々と出て来る。

 オーガの周りには例のマジックシールドを張る猿のような魔物がピョンピョンと飛び跳ねているのが見えた。


「騎馬隊出撃準備!

 なんとしてもオーガ共を投石前に殲滅しないとこの防壁が持たないぞ!!」


 騎馬隊で突撃するつもりなのか!?

 下を見ると西門内側から中央広場への道に騎兵が集結している。300騎以上はいるみたいだ。


「私が先陣を駆ける! 後の指揮は任せたぞ!」


 周りにいる幹部たちも頷いている。

 当然ながら、そんな無謀な突撃をさせるわけにはいかない。


「ジェラードさん! オーガは自分が殲滅しますので出撃は控えてください!」


「言っただろう、魔法攻撃はマジックシールドで防がれてしまうのだ」


「大丈夫です。まぁ見ててください」


「「…………」」


 俺があまりに自信たっぷりな態度だからだろうか、ジェラードや参謀たちは言葉を失ってるようだ。


 その間、オーガ達はある程度横に広がって砦へと歩を進め始めた。

 目算で大岩担いだオーガが40体、猿モドキがその倍近くか。

 その後方にはオークを主力とした大量の魔物が森から次々と出現している。

 投石攻撃で防壁を崩して、一気にこの砦を落とすつもりなのだろう。


 甘いな!


「攻撃開始します!」


 ある程度引き付けてから土槍(回転)を大量射出した!!


 猿モドキがマジックシールドで防ごうとするが、お構いなしに猿モドキとオーガを撃ち抜いていく。


「おおぉぉ!!」

「なんて威力だ……」

「いいぞ!」


 防壁上の兵士から歓声が上がる。


 周囲の盛り上がりとは裏腹に俺は違和感を感じていた。

 全てのオーガを殲滅できてるはずが、なぜか10体近く討ち漏らしているのだ。

 回避した、ということはありえない。

 オーガは大岩を担いだままなのでその動きはかなり制限されている。


 生き残ってるオーガに向けて単発で土槍(回転)を放ってみる。


 !?


 オーガの周囲にいた4体の猿モドキがマジックシールドを重ねて土槍(回転)を防いでいた。

 猿モドキは1枚しかマジックシールドを出せないようだが、複数体で重ねて防御力を上げるとは……なかなかやるな!


「下に降りて倒します!」


「オ、オイ! 待て!!」


 防壁の外へと滞空魔法で降り立った。


 さぁ、パワープレイの時間だ!

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