第13章 --編

第324話

 本日からは休みに入る。

 王都にある魔術研究所への立ち入りは、許可が下りるまでに1ヵ月ほどかかる。

 今日からだと20日後のことだ。

 さすがに20日間も休むのは長過ぎる。というか暇なので、俺に清掃の指名依頼があれば受けてもいいかもしれない。


 そもそも俺はたっぷりとイチャイチャする時間さえ確保できていれば休む必要があまりないのだ。

 狩りや討伐、魔法の練習などは自分の命が懸かってるだけに真剣に取り組んでいるが、それが仕事としてか? と問われると極めて微妙だ。魔法の練習なんかは趣味全開なところもあるし。

 清掃依頼に関しては仕事と言えるだろうが、浄化魔法で短時間で終わるので辛いと思うこともない。毎日やるわけでもないしな。

 今回の休みもルルカに言われたからで、彼女達に気を遣わせたくないってだけだ。


 他の依頼でも探してみるかなぁ。

 真っ先に思い当たるのは、やはり飛行魔法と収納魔法による高速大量輸送だ。

 特殊な案件だったとはいえ先日のミリスさんの依頼は報酬が20万ルクという高額だったし。

 まぁ別に金儲けしたいわけではない。特別な理由だったり納得できる事情でもない限り安請け合いしたくないだけだ。

 初めての依頼だった日当2000ルクの商隊護衛の悲劇は繰り返したくはない。

 それに金ならもう十分過ぎるほどあるか……ら……あっ!? でも有益な魔道具が売られている場合を想定してもっと貯金すべきなのかも!


 魔道具……ゲルテス男爵が持つ魔剣ファルヴァールはカッコイイ、すごく羨ましい!

 もし俺が光魔〇杖みたいな魔道具を手に入れられたら……

 『莫大な魔力を持ったツトムが手にした時のみ、あの武器は最強最悪の武器へと変わるのだ!』みたいなことを言われるのだろうか? 胸熱だな!!

 『その杖…………おそらく魔力を吸って莫大な破壊力を生み出す物と見た!』なんかも言われ…………ダメだ! これは俺が負ける側だ!

 それにいくら杖に超絶な攻撃力があっても相手に当たらなければ意味がないので、俺が持っても宝の持ち腐れだろう。

 やはりここは魔力を引き上げる指輪か腕輪みたいなオーソドックスなモノが無難か。


 それらの魔道具は仮に売られてるとしてもどのぐらい高額なのだろうか?

 もし億単位だったらとてもじゃないがすぐ何とかできる金額ではない。

 手が届く範囲内を想定して(=期待して?)資金を貯めていく感じになるのかな。

 しかし依頼で急ぎでの大量輸送なんてまずない。掲示板でも見たことがないし、それ以前に輸送に関しては商業ギルドの管轄だ。

 他には…………、以前ルルカを実家に送った際に寄った漁村で魚を仕入れるのはどうだろう?

 王都まで運んで売れば儲かりそうだが、2日掛かりで往復しないといけないから微妙だ。ん!? 待てよ、前回はルルカを抱えていたから飛行速度を落としていたし、道中休憩もたくさん取って帝都にも寄り道をした。全速で漁村を目指して飛べば1日で往復できるかもしれない。

 試してみるか?

 …………いや、まずは魚がいくらで売れるか調べるほうが先かな。

 あの魚の名前はカリークだったか。漁獲量も多くマグロのように1匹の単価が高いわけでもないから、長距離を運んでもそれほど高値では売れないかもしれない。

 希少価値の高い魚も貴族や大商会が押さえてると言うし。

 そういやまだ収納にカリークが残っているな。すっかり忘れていた。ディアがまだ食べてないから今晩にでも焼いてみるかな。


 当然ながら金を稼ぐにはオークの集落でも襲うのが一番だ。

 バルーカでは買い取り価格が下落しているが、帝都に持ち込んで高値で捌ける俺にはほとんど影響はない。

 それをしないのは、2本角の黒オーガが出張ってくる危険性があるからなのはもちろんだが、俺が魔物を駆逐することが果たして正しいことなのか、と疑問に思い始めたからだ。

 いくらバルーカの防衛は軍が主力とはいえ、冒険者から戦闘の機会を奪えば強くなる可能性をも潰すことになるのでは?

 俺がいないと魔物を抑えられない、では非常に困るのだ。



 昼食後にルルカの身体を枕に色々と思考を巡らせながらウトウトとしていた。

 ロザリナとディアは庭で素振りをしている。

 寝室からは見えないが、微かに2人の木刀を振る音が聞こえてくる。

 素振りの後は対戦でもするのだろうか?

 2人は奴隷紋が施されているので俺への攻撃はできないが、奴隷同士であれば対戦は可能だ。

 実力はロザリナが完全に上で、剣術・スピード・体力といった面がディアを上回っている。

 ディアのほうも長身故のリーチの長さやパワーといった有利点があるので、もう少しロザリナに迫れると思うのだが、故郷を出てから奴隷商で俺に買われるまでのブランク期間が響いてるみたいだ。


 ルルカの身体の心地良さと髪の毛を優しく撫でられる気持ち良さに俺は徐々に意識を落としていった。




……


…………



「……ムさん、ツトムさん!」


 身体を揺らされて目が覚める。


「ん……、どうした?」


「城から伝令が来たぞ!」

「今日中に来てほしい、とのことですよ」


 ロザリナとディアも部屋にいる。

 素振りの途中で来たのか2人とも汗だくだ。

 肌着が身体に貼り付いて魅惑のボディラインを際立たせている。

 中々のエロさに思わず手が伸びそうになるが、なんとか意識を集中して思い留まった。


「これから城に行ってくるよ」


「せっかくお休みにしましたのに……」


 ルルカがちょっと不満気だ。


「急いでる感じではないようだから、大した用件ではないのかもしれない」


「だと良いのですが……」


 一昨日倒した黒オーガについてだろうか?

 だとしたら呼び出しは昨日のはずだしなぁ……


「とりあえず行ってくるよ」


「「「いってらっしゃいませ!!」」」


「お、おぅ」


 そういう大げさなのはいらないっていつも言ってるのだけどなぁ。

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