第12章 母娘再会編

第292話

 ミリスさんの立場を悪くしない程度には依頼をこなすか?


 おそらく城内ギルドに所属を移せばこの問題は解決する。

 あちらはギルドとしての規模も大きいし、所属している冒険者の数もここ(=壁外ギルド)とは比べるまでもない。

 俺1人依頼を受けないところで悪目立ちすることはないだろうし、ギルドマスターであるレドリッチには3等級昇格試験の際の貸しがまだ1つ残っているので、所属を移す際に依頼を受けない旨を条件にすることも可能だ。


 ただ…………

 迷惑を掛けた……とまでは思わないが、自分が原因で職場での立場を悪くしたミリスさんを放置したままでは寝覚めが悪い。

 それにミリスさんは中身は残念だが、外見は秘書風美人お姉さんだ。もし城内ギルドに所属を移してコーディスのような男性職員が担当にでもなったら目も当てられない。

 さらに、俺が城内ギルドに所属を移すことはレドリッチも望んでいることで、何も奴の願いをこちらが進んで叶えてやることもない。

 最後に、ロザリナがここ(=壁外ギルド)で剣の指導を受けられるのはミリスさんの計らいである。もっともロザリナは指導する側に回っていてタダ働きをしているので、どちらにメリットがあるのかわからない状況になってしまっているが……


 という理由からこの状況を改善する方針に決める。


「ミリスさんがお困りでしたら、これからは時々依頼を受けるようにしますよ」


「ありがとうございます!」


 たまに清掃依頼でも受ければいいか、という軽い気持ちで申し出た。

 7等級から6等級へ昇格した時みたく、パーティーを雇って何十と件数をこなすとかなら大変だが、自分1人で数件の依頼を受ける程度ならすぐに終わるだろう。

 あっ!? そうだ!


「あと、明後日に私用で王都に行きますので、王都向けの依頼や用事があったら引き受けますよ?」


「ほ、本当ですか?!」


 えらく喰い付きがいいな。


「収納魔法を使って頂くことは……?」


「それは構いませんが、私用に影響しそうな時間が掛かったり複雑な案件は勘弁してください」


「オ、オークを……オークを王都で売ってきてください!」


「オークを?」


「はい! ツトムさんはオークの買い取り額が下落しているのをご存知ですか?」


「ええ。

 奪還した南の砦からオークの供給が始まったとか」


「その他にもコートダールから交易都市ロクダーリアへ大量のオーク肉と角付き肉が流れるだろうとの噂もありまして……

 買い取り額が下がるということは必然的に売値も下がりますから、バルーカの住民も求めやすくなるという流れから売れ行きが好調になることを予測して、解体場のほうに普段より多めに買い取るよう指示を出していたのです」


 ははぁん……大体読めてきたぞ。


「しかしその予測に反して販売数は伸び悩み……ってとこですか?」


「な、なぜそれを?!」


 そりゃあそういう流れでないとオークを王都で売ってきてくれなんてことにはならんでしょ。

 それに広告手段が口コミしかないこの世界では、値段を下げたからといって即ダイレクトな反応には繋がらないだろうし。


「卸値もギリギリまで下げたのですが、それでも卸業者には仕入れ枠を少ししか増やしてもらえず……」


 卸売業者の人も大変だな。

 今後も付き合いが続くミリスさんのために、苦労して仕入れ枠を微増させた感が手に取るようにわかる。


「もう損を被るのを覚悟でドルテスに輸送するつもりだったのです!

 明日には手続きするつもりでした!!」


 王都まで輸送しないのは日数を要する分、肉がダメになってしまうからだろうな。

 それに赤字覚悟なのは急を要する輸送依頼なので輸送代が割高になるからだ。もっとも事前に荷馬車を手配していたとしても差額分で儲けが出るかは微妙な感じだが……


「わかりました。引き受けましょう」


「ありがとうございます!!

 手続きをしますので受付のほうへ……」


 2つある受付と買い取りコーナーは既に閉まっている。

 冒険者ギルドは不測の事態に備えて24時間営業だ。

 もちろんコンビニとは違い、昼夜で営業形態はかなり異なる。

 夜間は夜勤の職員が仮眠をとってるだけで受付その他の業務は行わない。緊急時のみの対応となる。

 どちらかと言えば救急対応病院の営業形態に近いだろうか?


「今回はギルドからの直接依頼となります。

 報酬は…………20万ルクでいかがでしょうか?」


「構いませんよ」


 意外に高い報酬額だった。

 この額で引き受けるのならルルカに怒られることもないだろう。


 その後倉庫に山積みされたオークを収納に入れてギルドを後にした。

 明後日王都に行く前にもう1度ギルドにオークを回収しに行く手はずとなった。




「ただいま~」


「お、「おかえりなさいませ」」


 家のドアを開けるといつもの如く2人に出迎えられた。


「無事に4等級に昇格したよ」


「それはおめでとうございます」


 ルルカが抱き付いて来る。

 3日ぶりのルルカの身体を堪能しようと抱き締めると、


 (……クンクン……スンスン……)


 えっ!?


「…………ツトムさん、誰となさいましたか?」


 こ、怖!?

 普段とまったく違う低い声色に困惑してしまう。

 そもそも相手は…………


「ロザリナ! 貴方が付いていながら一体どうして……」


「ル、ルルカさん、落ち着いてください。

 ツトム様は先ほど私と……」


「あら? そうだったの?」


 場の空気が一気に弛緩した。


「ツトムさんも仰ってくださればよかったのに」


 『怖くて言葉が出なかったんだよ!』とは口が裂けても言えない……


「ツトム、昇格おめでとう」


 今度はディアに抱かれる。

 3人の中で最も背の高いディアとだと、どうしても抱かれるという形になってしまう。


「留守中何かあったか?」


 答えの代わりに唇を塞がれる。

 遠慮がちに舌を絡ませてくるディアのキスは、もどかしく感じるもののそれが逆に新鮮だったりする。


 しばらくディアの感触を楽しんでいると、手が伸びてきて強引に顔を横に向かせられた。


「私とするのを忘れてますよ」


 ルルカが俺の目を見つめながら顔を近付けてきた。

 どうやら自分とキスしなかったことを不満に思ってるみたいだ。


 ディアよりも、ロザリナよりも濃厚に舌を絡めてくるルルカは、ディアと俺の身体の間に手を入れて触れてきた。

 キスを中断させられたディアは耳に舌を入れてきた。


「ツ、ツトム様ぁ」


 帰りにしたばかりのロザリナも身を寄せてきた…………

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